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忘れたいのだ。 あの想い出の全てを忘れたいのだ。 彼女を想い、過ごした日々は楽しかった。 たくさん学んだことがある。 でもやっぱり、忘れたい。 ある時から、 心の奥底では薄々気付いていたはずだった。 君と僕とじゃ合わないってこと。 初めは共感することも多く、居心地が良かった。 けれども、 心のずっと深くに触ろうとすればするほど 君と僕との間には壁が出来てしまった。 僕たちはお互いよく似ていたからだ。 似ていたからこそ、 合わないと思う感覚すらも忘れてしまっていたのだ。 得たものも、失ったものも沢山ある。 しかし忘れたいことであっても、 人生のひとかけらとしてやはり残り続けるだろう。 最後に会った時に君が僕に渡した飴は、 この上なく純粋に透き通っていて ガラス細工のようにぴかぴかと輝いていた。 僕の心は淀んだままだ。 ずっと深くの方に沈みこんでいる。 そんな自分を支えながら、僕は飴を噛み砕く。 あの煌びやかな想い出を、噛み砕く。
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