序章 波乱のお茶会

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えぐえぐと泣きだした彼女には申し訳ないが、いまは慰めている時間はないのだ。 仕方ないので、友人の方に頼んでお引き取り願う。 それじゃなくても忙しいのに、さらに彼女にまで取り合っている暇はない。 冷たいと思われるだろうが、適材適所。 私には彼女を元気づける役目よりも、この場を納める役目の方が似合っている。 それにもともと、今日は水屋のまとめ役を頼まれていた。 「で、どうするの、これ?」 私よりひとつ年上の木田さんがはぁっ、と小馬鹿にするようにため息を吐き出した。 「他の茶碗ならまだしも、よりにもよってあの茶碗。 国宝級なんてそうそう簡単に準備なんかできないわよ」 件の茶碗は昔、某大名家が所有していたという高麗茶碗だ。 しかも徳川何某が献上するように求めたが、切腹と引き換えに断ったとかいう謂れがついているほどの名器。 「そう、ですね……」 確認した時間はすでに、濃茶の点前がはじまっている。 亭主である家元には相談できない。 代わりをこちらでなんとかするしかないのだ。 近くの美術館に同程度の茶碗が展示してあるのは知っているが、まさか貸してくださいなんて言えるわけがない。 他に借りられそうなところ……。
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