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「では、他になにか問題でも?」
「その、あの茶碗を貸していただけないでしょうか?」
「はい?」
私がショーウィンドウの茶碗を指さすと同時に社長の首が傾き、さらさらと前髪が揺れた。
「その、本日メインの茶碗を割ってしまいまして。
それで大変申し訳ないのですが、藤懸屋さんご自慢のあの茶碗を貸していただけないかと」
深くあたまを下げ、返事を待つ。
その時間すら、惜しい。
「……わかりました」
すぐにはぁっと小さなため息と共に彼の言葉が落ちてきた。
「誰でもない、咲乃さんの頼みです。
仕方ないですね」
「ありがとうございます……!」
これ以上ないほど深く、あたまを下げる。
毎回、面倒だと思わずにきちんと和菓子の発注をしてきたのがこんな時に役に立った。
「代わりに次回も、うちの店を使ってくださいよ」
「はい、それは!」
箱に入れて渡された茶碗を、丁寧に受け取る。
「では、大事にお借りします!」
もう一度あたまを下げ、屋上庭園の会場へと戻った。
「すみません、すぐに準備します!」
水屋では家元が、苛々としながら待っていた。
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