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「高麗茶碗は割れたということですが、どうなってるんですか!?」
その気がなくても男性の大きな声にはやはり、身が竦む。
しかし気にしないフリをして借りてきた茶碗を清め、家元に渡した。
「藤懸屋さんがご厚意で貸してくださいました。
これならあの茶碗と引けを取らないかと思います」
「わかりました、もう時間もありません。
これでいきます」
重々しく頷き、家元は準備をして茶道口の前に座った。
「ほら、みんなもお茶を点てる準備をして」
私の仕事はこれで終わりじゃない。
まだまだやることはたくさんあるのだ。
水屋でトラブルがあっても、茶会自体は順調に進んでいく。
ここではお客はもちろん、表でお茶を点ててもてなすのは社長や社長夫人、ご令嬢といったセレブだ。
私のような一般人はいつも裏方の水屋仕事。
しかしそれが、嫌だと思ったことは一度もない。
きっと、裏方が向いているんだと思う。
片付けが終わり、私だけ家元に呼ばれた。
「今日はご苦労様でした。
ところで、茶碗を割った当の本人からはなんの謝罪もないのですが、どうなっているのですか」
「それは……」
家元の目は、私を責めている。
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