序章 波乱のお茶会

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彼女はその後、具合が悪くなったと帰ってしまったと聞いていた。 体調がすぐれないなら仕方ないが、せめてそこは家元に詫びの電話なりメールなりくらい入れるのが筋だろう。 「……申し訳ありません。 あとで私から、連絡を入れてみます」 「そういう気持ちだから、大切な茶碗を割ったりするのではありませんか」 彼のいうことはもっともすぎて、返す言葉もない。 セレブ相手の茶会を多数催すお茶教室、手伝いでも参加すれば知り合う機会もあるのでは、なんて軽い気持ちで入門してくる人間があとを絶たないから。 「申し訳ありません、私の指導不足です。 もっと皆に言って聞かせます」 あたまを下げ、悔しさで奥歯を噛みしめる。 私は一般青年部のまとめ役を任されているが、そんな事情で私の忠告をうっとうしく思っている人間も多かった。 「割れた茶碗のことを責めたいわけではありません。 形あるものはいつか壊れる。 どんなに高級なものでも例外ではありません。 けれどその後の、態度について責めているのです」 「……はい。 申し訳、ありません」 同じ言葉しか返せない。 家元のいうことは正論だ。
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