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「咲乃さんは立派にやられているとは思います。
けれど最近、こういう若い人たちの態度が目に余るのです」
はぁーっ、と家元の口から落ちるため息は、苦悩の色が濃い。
茶道とはその作法を学ぶものではない。
それを通じて、人としてのあり方を学ぶものだ。
なのに門徒がこれでは困るだろう。
「申し訳ありません、彼女には重々言って聞かせます」
「頼みましたよ」
お辞儀をして、部屋を出た。
携帯を出し、メッセージを送ろうとLINEを立ち上げる。
けれどあのあと、様子を訊こうと入れたメッセージは既読にすらなっていなかった。
通話ボタンをタップしたけれど、応答無し。
「まさか、ブロックされてる……?」
家元の気持ちがよくわかる。
こんなことでいきなり、ブロックだなんて。
あとから、私が冷たかったから彼女は辞めたのだ、なんて話を聞いたときには、本当にどうしていいのかわからなかった。
「もういい、帰ろ……」
今日は働きすぎたのか、あたまがくらくらする。
ふらっと歩きはじめたところで、前から来た男にぶつかった。
「あ……。
すみません」
あたまを下げたけど、相手は私の腕を掴んだまま放してくれない。
「あの……?」
「顔色が悪い。
少し休んだ方がいい」
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