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人に言われるほど、酷い顔をしているんだろうか。
「ご心配、ありがとうございます。
タクシー拾って帰りますので、大丈夫です」
またあたまを下げ、歩きだそうとするけれど、彼はまだ私の腕を放さない。
「そこまで送らせろ」
そっと、私を支えるようにして彼が歩きだす。
ふわっと香る、香水の匂いがどうしてか心地いい。
「気をつけて帰れよ」
彼はわざわざタクシーを捕まえ、私を乗せてくれた。
「ありがとうございました」
お礼を言い、タクシーを出してもらおうとしたものの、彼が首を突っ込んでくる。
「運転手さん。
これで彼女を家まで」
マネークリップから引き抜いたお札を、さらりと彼は運転手に渡した。
「あ、あの!
見ず知らずの方に、そこまでしていただくわけには……!」
「お前は今日、凄く頑張った。
だから、これくらいのご褒美はあっていいはずだ」
「はぁ……」
彼は今日の茶会の、出席者だったんだろうか。
けれど私はずっと裏にいて、客とは会っていない。
「でも、気が引けるっていうならこれ、もらっておくな」
車の縁に手をかけ、彼の顔が近づいてくる。
ちゅっ、と唇が私の唇に触れて離れた。
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