【1.高城藍】

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   そう言われて見つめられて、わたしは思わず彼に「何言ってるの? あなた、バカなの?」と言葉を返した。 「藤野透子。君はいい女だ」  そしてまた変なことを言われる。 「……なんなの、さっきから。あなた酔ってるの?」 「いや?」 「あなたさっきからおかしいもの。大体、なんでわたしがあなたなんかと……」  わたしは高城ホールディングスに恨みしかない。買収されて夕月園を失って、わたしは若女将としての職を失ったのだから。  恨んで当然としか思えない。 「君は美しい。……その辺にウヨウヨいる女よりも、誰よりも美しい。品があって華やかで、そしてとても気が強そうだ」 「あなたねぇ……!わたしのこと、バカにしてるの?」  何なの、この男は……!さっきからわたしをバカにしてるとか思えない。 「バカになんてしてない。俺の本音だ」   「本音……ですって?」  わたしのことを何も知らないくせに、よくそんなことが言えたものね。  本当にこの男は……。見てれば見てるだけ腹が立つ男だわ。  こんな男のものになんて、わたしは絶対にならない。協力なんかしないし、二度と関わらない。
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