【0.序章】

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 そしてその年の十二月十五日。高城ホールディングスの社長、高城明人が夕月園に足を踏み入れた。  そしてそこで高城明人から言われた言葉は、衝撃的な言葉だった。 「夕月園は、我々高城ホールディングスが買収させていただきます」 「え、買収……!?」 「買収って……。どういうことですか!?」   夕月園を買収すると言い出した高城明人は、わたしたちをホテル・カナリアで引き取ると言ったのだ。  そう。けれどそれは、わたしたちがカナリアで除け者扱いにされるということだった。  だけどそんなことに賛成できるはずもなく、わたしは断固反対した。   「ここはもう終わりだ。こんな古臭い旅館の時代は、もう終わったんだよ」 「古臭い……?」  そんなことない。夕月園は立派な旅館だった。あんなにもたくさんの人から愛されて、活気のあふれる旅館だった。  たくさんの人の笑顔を、わたしたちは最後まで作ることもできた。  満足して帰られるお客様の笑顔のおかげで、わたしたちはこうして立派に働けていた。  なのにそれを汚すなんて、わたしは絶対に許せない。   夕月園は歴史ある立派な旅館だったんだから。
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