【0.序章】

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「融資が受けられないんじゃ、経営の立て直しはもう無理やわ。……もう、何も出来ることはないわ」 「女将……」  女将はもう諦めていた。自分には何も出来ないことを悟ったんだ……。 「……実は言うと、以前から買収の噂はわたしも耳にしていたんよ。 だけど本当、やったね」 「どうして……。どうして教えてくれなかったんですか!?」  わたしがそう問い詰めると、女将は「まだ確証がなかったからよ。……変な噂を立ててお客様に影響したら大変だと思ったから、言わなかったのよ。あなたたちにも」と言った。 「……女将」 「ここが買収される前に、あなた達は退職しなさい。それが懸命な判断よ」 「ちょっと待ってください、女将! 退職なんて……!」  そんなこと出来ない。わたしは女将の背中をずっと見てきたから、そんな簡単に夕月園を捨てることなんて出来ない……。   「いい、透子。あなたはまだ若いんやから。……若女将なんて辞めて、普通の女の子らしく、生きていきなさい」 「そんな……」  それから二日後の十二月十七日、夕月園はまんまと高城ホールディングスにより買収された。  そして夕月園は、百五十年という長い歴史に幕を下ろしたーーー。
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