【9.不思議な感情】

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 慣れない手つきでネクタイを結ぶわたしを見て、藍はちょっと笑っていた。 「ちょっと、何で笑うのよ……」  なにも笑うことないじゃない……。ひどい、藍ったら……。 「悪い悪い。一生懸命ネクタイを結ぶ透子が可愛くて、つい笑ってしまった」 「え、何それ……。何も笑うことないじゃない……」  わたしにだって人間だから、不器用なことくらいあるもの。 「だって可愛くてさ、透子が」 「だから、いちいち可愛いって言わないでってば……」  いつも可愛いって言うんだから……。やめてって言ってるのに。 「可愛いのは事実なんだから、仕方ないだろ?」 「……もう、藍のバカ」  そうやっていつも、わたしを困らせるようなことを藍は言う。  その度にわたしは、なんて返したらいいのか分からなくなる。   「透子が可愛いのが悪い。 この責任どうとってくれる訳?」 「え、どうって……?」  何言ってるのか、分からないんだけど……。 「そうだな……。透子からキスしてくれたら、嬉しいかな」 「はぁ……?」     え、わたしからキス……!? そんなのムリなんですけど……!
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