【10.好きなのかもしれない】

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「え?……何だよ、急に」  藍の表情が少しだけ曇ったのを、わたしは見逃さなかった。 「……わたし、知ってるんだよ。高城社長がわたしのこと、毛嫌いしてたってこと」  わたしは元々関東の田舎の出身の人間だ。京都に来たのも若女将として働くためだけだ。  関東の田舎の出身のわたしは、京都弁なんて話すことも出来ない。だから今までも、お客様に対しても標準語で話すことも多かった。  少しだけ京都弁も話せるけど、わたしには合わない。イントネーションも分かりにくいし、言いにくいし。 「関東の田舎の出身のくせに、京都で若女将をやってるなんて、信じられないって……。バカにしてたこともね」 「……知ってたのか」 「知ってたよ。……結論から言えば、わたしは高城家の嫁としては、元々相応しくないってことも分かってるよ」  高城家を継ぐ者としては、本当ならどっかの令嬢と結婚した方が藍のためにもいいのかもと、まだ思ってる。  けどわたしは、それでも藍と結婚して夫婦になることを決めた。  藍と夫婦になるために、そして藍と家族になるために……。  それが最善の選択だと思ったからだ。
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