早坂尚の場合

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早坂尚の場合

今まで普通に生きてきて、 あ、俺もしかしてモテるのか? そう思うことはあった。 それは、高校に入って確信にかわった。 俺が何を発言しても、女の子達は楽しそうだったから。 俺が女の子と関係をもつのに夢中になった最初のきっかけは、高校の女の先輩に呼び出されて、一緒に飲んだとき。 あ、これ楽しい。 そう思った。一気に何かが満たされた気がした。 いろんな女の子にその気にさせる言葉を言って、 俺の言動に一喜一憂する女の子の姿は、心地よかった。それは大学生になる頃にはもっとひどくなった。 たくさんの女の子と遊んでも誰も止めなかった。 特にお気に入りだった飛び抜けて美人な「優子」を落とすことに夢中だった。 まぁ、あっけなく断られたけど、 あれじゃあたぶん誰とも付き合わないんだろうな。 真面目に好きな人とやらをつくろうとしているらしい。俺とは反りが合わない。 長期戦はめんどうだし、 それならたくさんの子とした方が楽しい。 それからの切り替えははやく、優子をおとすのに奮闘しているときに、優子経由で、人脈は増えた。 美人の友達は、まぁ美人だしな! それくらい馬鹿になってた。 でも、その中でとりわけかわいそうな女がいた。 恋愛なんて知らないような、純粋そうで、子どもっぽいこ。 こいつとはねーな。と、初対面で思った。 だから、そいつのことは、からかうだけで機嫌を取ることなんてなかったし、美人な子ばかり話しかけても悪いから片手間に話しかける。そんな感じだった。 それなのに、 学園祭の打ち上げで、皆で酒を飲んだ翌日、 あんまり覚えてない。 起きたらベッドでそいつと寝ていた。 つまり、そういうことなんだと一瞬で悟った。 まさか自分がこんなやつまでおそうとは思いもしなくて、大分焦った。 「あー、、 ごめんあんま覚えてないんだけど、、」 「そーだろうね、ほぼ寝てたし。 大丈夫!楽しかったよ?」 あれ? こいつもしかして、前々回純粋じゃなかったりする? その日から、興味のなかったこいつと関係をもつようになった。 関係をもってわかったことは、 こいつの名前が日向ってことと、 束縛するわけでもなく、ただ、本当にそれだけの関係でいいということ。 こういうことに慣れてて、見た目の印象と随分違ってた。第一印象はあてにならないと本気で思った。 でも、見た目通り、無邪気で子供っぽいところもあった。たまに普通に出掛けると、そういうことなんにも知らない純粋で無垢なやつに見える。 あれもしたい!これもしたい!って、走り回って、本当に楽しそう。 まぁ、飽き性ではあった。 まんまとそのギャップにやられたんだと思う。 こいつが、俺だけを好きになればいい。 いつのまにか、執着してた。 ーーーーーーーーーーーーーーー 突然だった。 いつもの会話で、 「私、昨日さー」 「おー」 「彼氏できたから 今日で終わりってことで」 いつものように無邪気な笑顔で言った。 「、、は、?」 「はは!そんなびっくりする?」 「いや、急すぎだろ、なんで、」 「いや、私もビックリ! でもつきあうなら、ちゃんとしたいというか、私本当は一途なんだって初めて知ったよ。」 いや、真剣な顔で言うなよ。 嫌だよ。ふつうに。 「それじゃあ、ありがとうございました! 連絡先も全部ブロ削しちゃうけど、嫌いになったとかじゃないからおちこむなよっ!」 いやだ、嫌だ。 なんでそんなぽっとでのやつに、 取られなきゃいけないんだよ。 俺が先にいえば なんで、 本当にあっけなく終わった。 最初はバカにしてて、 恋愛も全然できないようなかわいそうなやつだと思ってた。 なのにこんな好きになると思ってなかったし、 こんなのカッコ悪すぎだし、 このまま走って、追いかけて、 嫌だって止めて、 そんな恥ずかしいことできるわけない。 それに、そんなことしたってあいつが俺を選ぶわけない。それはずっと、なんとなくわかってた。 ああ、だから俺は、何も言えなかったのか。こいつが離れるのが怖くて、俺はそんなに、日向が好きだったのか。
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