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「おーい。」と狼の頭をツンツンとつつかれていた。
はっ!と勢いよく起き上がるとそこに居たのは、結蘭だった。
「起きたんだな。」
結蘭はスマホをイジりながら、立ち上がり狼にお茶を出した。
「あっ、あの……ここは?」
「ここは事務所の一室」
「あっ、あの!魁士さんは無事何でしょうか?僕より傷が酷かったと思うんです!」
おぼつかない体で狼が起き上がった。
「あぁ。あいつならぐっすり眠ってるよ。」
「よかったー。」と狼はホっとして、ベットへ座り込んだ。
「あのバカも凄い傷だったのに、狼を運ぶためにカッコつけてたな、ありゃ。事務所まではたどり着いたみたいだけど、そこで力尽きたのか今は眠ってる。」
「そうですか……」
狼はグッとズボンを握り顔を下げた。
「まぁ、でも今は遥が看病してるみたいだし、大丈夫だと思うぜ。」
「遥さん?」
狼が知らない名前だったので、首を傾けた。
「あぁ。遥は、叶の弟で、そしてあのバカの一番弟子。」
「弟さん、魁士さんの一番弟子なんですね」
結蘭と話をしていると扉が開く音がした。
「あっ、噂をすればだ」
「結蘭さん、新人さんの看病は終わったんすか?」
扉から入ってきたのは、叶の弟である遥だった。
「看病なんていらないっぽかったよ!ほら、現に起きてるし!」
結蘭が顎を使って狼をさした。
「そういう問題じゃないっすよ!」
遥は狼に近づき、体を軽く触った。
「うーん。肩にアザできてるっすよ」
そう言われ、狼が服を脱ぐと男とぶつかった肩がアザになっていた。
「凄いっすね、遥さんは」
「俺は銃を使いこなせなかったんで、この事務所の研究員っすからね」
「でも、魁士さんの一番弟子じゃ……?」
「あれは、2年前の話っすよ!」
狼にテーピングを貼りながら話をしていた。
「……まぁ、俺は人を殺しちゃったんで戦闘に出るのは辞めたんす。っと!これで暫く安静にしといてくださいね!」
遥は救急箱を直して、ニコッと狼に笑いかけた。
「あっ、あの……遥さん」
「この話はまた今度っす!じゃあ、あとは結蘭さんお願いするっす!」
ポケットから飴玉を取り出し、口にくわえてその場から立ち去っていった。
「狼!!!!!!」と勢いよくドアを開けて、魁士が入ってきた。
「おい。クソバカ。ドア壊すんじゃねぇーよ」
結蘭が魁士を睨みつけた。
「その呼び方そろそろ止めろ。それより、狼は?」
魁士が結蘭のおでこをひっつけて、睨みをきかせていた。
「あっ……あの…」と冷や汗を垂らしながら狼が間に入った。
「おっ!狼!!命の恩人!!!」と魁士が肩に手を置いた。
「いっ……命の恩人は魁士さんかと…」
目を泳がせながら、驚いていた。
「お前、あの時俺様を助けてくれただろう?」
狼はきょとんした顔で首を傾けた。
「おい、バカ。いきなり入ってきて狼を刺激してんじゃねぇ。」
結蘭が魁士の後ろから引っぱたいた。
「はぁ?!なにがだよ」
「さっき、狼が眠っている間に遥に聞いたんだよ。自分が戦ったことは覚えてねぇ。戦いの間はこいつじゃない奴が戦っている」
狼は顔を少し青ざめ、下を向き手のひらを見た。
「僕じゃない……誰か…」
結蘭が狼の肩に手を置いた。
「お前は凄い力を持っている。大丈夫だ。なにかあったら、俺が狼を止めるから。なっ!」
結蘭はニコッと優しく微笑みかけた。
「結蘭さん。ありがとうございます!」
「おう!」
狼の髪の毛をぐしゃぐしゃと撫でた。
「俺様もいるから安心しろ!なんたって、お前の保護者的役割だからな!」
魁士はニコニコしながら、腰を当てて高らかに笑っていた。
「バカが移るから狼に近寄るなよな」
結蘭は後ろから抱きつき狼をギュッと体を引き寄せ、シッシッと魁士をあしらっていた。
「んだと!!俺はな、紗奈さんからこいつ任されてんだよ!昔は可愛い奴だったのに、あん時のお前はどこに言っちまったんだよ!」
2人の言い合いを見て狼はクスッと笑った。
「アハハ……」
2人は言い合いを止めて、狼を見た。
「すっ……すみません。けど、なんかこういう家族というか、友達とかと笑いあえたことなんてなくて……」
結蘭は狼の頭を撫でた。
「狼を1人になんてさせないよ」
「結蘭さん。」
「俺様だって!!今までがどんな道を歩んできたのか知らねぇけど、お前は今は1人なんかじゃねぇ!ここにはインフェスタードの皆もいる。だから、そんな顔するな」
「魁士さん……」
狼は目に涙が溜まっていた。
「バカにしてみればいいこというじゃねぇか」
「バカバカ言うんじゃねぇよ!おっ、おい、オオカミ涙出てるぞ!?」
自然と狼は涙を流していて、涙は流れて止まらなかった。
「すっ、すみません…!」
「ほら、これで拭けよ」
さっと魁士がハンカチを狼に渡した。
「ありがとうございます!!」
ハンカチで涙を拭い、ニコッと2人に笑いかけた。
「これから、僕皆さんのお役に立てるように頑張ります!」
狼の物語はこれから始まる。
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