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ヘリコプターが着陸し、中から数人のスタッフが降りてくる。手慣れた仕草で蓮太をストレッチャーに乗せヘリコプターへと運び込む彼らの様子を呆然と見つめる香澄とあずさに、「それじゃ、お店のことよろしくね」小夜子はにっこり微笑んだ。
あの喫茶店は、親代わりとなって香澄を育ててくれた祖母の、大切な忘れ形見だ。
「はい!」
あずさがキリリと姿勢を正す。
「任せといて」
香澄は自信たっぷりに胸を叩いた。
大きくひとつ頷くと、小夜子はドアの向こうへと踏み出した。
「お父さんにもよろしく」
その背に香澄が声をかける。
僅かに振り向きくしゃりと顔を歪めたあと、小夜子は颯爽とヘリコプターに乗り込んだ。
ドクターヘリを模したそれが、空高く飛び立っていく。みるみる小さくなるその機体を見つめる香澄の瞳が、夕日を浴びてキラリと光った。
「あたしがいますよ」
「へっ?」
驚き横を向いた香澄の視界に、満面の笑みを浮かべるあずさの顔が映り込んだ。
「香澄さんには、あたしがついてます」
「あずさちゃん?」
「だから寂しくないですよ」
ぽかんと口を開けたあと、「そうね」香澄は声を上げて笑った。
「次の試作品も、イケメンだといいですね」
「もう。あずさちゃんったら」
香澄があずさを肘で小突く。客がまばらになった遊園地に、二人の笑い声が響き渡った。
了
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