レンタルマン

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 中細挽きの豆にお湯が染み渡ると同時に、店内が香ばしくて芳醇な香りで満たされる。本日のコーヒーは、コスタリカをベースとした甘くてマイルドな味わいのブレンドだ。  香澄は、ハンドドリップでコーヒーを淹れる時の、お湯が豆に染み込む音がたまらなく好きだ。まるで乾いた細胞が徐々に潤っていくかのように、プチプチと音を立てながらドリッパーの中の豆が膨らんでいく。そんな姿に、香澄はいつも生命の息吹を感じるのだった。 「蓮太くん、今日も貸し出し中?」  コーヒーフィルターからサーバーに落ちていくコーヒーをカウンター席でじっと見つめながら、坂田が訊く。 「ええ。今日は花咲さんとこです。なんでも、出前の注文が沢山入ったみたいで」  花咲は、近所の中華料理屋だ。創業当初から受け継がれている秘伝のタレで作ったチャーハンが絶品で、時には地元企業からも出前を頼まれることもある。 「ほんと、香澄さん人がいいから、すぐ貸し出しちゃうんですよ。蓮太さんのこと」  呆れたようにため息をつきながら、あずさは坂田の前にチーズケーキを置いた。  蓮太というのは、この店のオーナー斉木香澄の従弟で、事情があって短期間だけ住み込みでバイトをしている二十四歳の青年だ。  就職先が決まるまでの繋ぎということだが、特に就職活動をしている様子はなく、毎日休まず店に出て、常連客と他愛もない話で盛り上がっている。  明るく爽やかな好青年。将来への不安など微塵も感じられない。 「だって、困っている人がいたら助けてあげたいじゃない。蓮太も頼られると嬉しいみたいだし」  ドリッパーを外し、サーバーに溜まったコーヒーをカップに注ぎながら香澄が笑う。 「蓮太さんの分のバイト代、あたしに上乗せしといてくださいね」  イーっと歯を剥き出しながら香澄を睨むと、あずさは空いた皿を片付けにテーブル席へと向かった。
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