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過去のお話。
沙也加自殺決行の朝。
まだ太陽が完全に頭を出す前の午前五時頃の光景。
白いモヤがかる早朝の住宅街、一軒の白い一戸建て住宅。その室内はまだ誰も起きておらず静かな空間となってそこに存在している。
沙也加である私が静かに目を覚ます、白い天井がうっすらと目の前に現れ。その瞬間死のうと思った。
以前から自殺願望はあった。死ぬ理由を問われても静かに黙っていることしかできない、自分にもそれは分からないのだから。
直接的な原因ではないが心の隅に兄である拓海の存在があった。兄は私のことを姉だと思い込んでいる、それに付き合って優しい姉を演じている自分。
正解が分からない。でもこれが自殺原因かと問われるとやはり静かに黙っていることしかできない。
苦しいか苦しくないかと質問されれば前者をフライング気味で選択してしまう気もする。きっと疲れていたんだと思う。何に? 何で? どこが? そんな自問を自身に投げかけてしまう自分も、もうどうしようもなく嫌で、やはり自殺しようと思った。
クローゼットから白いドレスを取り出し着替えていく。夢も希望もない自殺という行為に添え物程度でも華を持たせようと思った。
以前購入しておいた登山用のロープを机引き出しから取り出す。ロフト部分に上り、ロフト鉄柵に括り付け自分の首にもロープを括り付けた。頑丈そうなロープに全ての願いを託し、静かにロフト部分から一気に飛んだ。
張ったロープの先には細くて長い白い首。全体重が首に衝撃となって突っ張り静かにその力を強めていく。じりじりと締め上げられる太いロープに踠き首を引っ掻く私。
鬱血していく顔面に硬直していく手足。最後だけはと微笑みの表情を作り、純白ドレス姿の自殺体はここに完成した。
瞬きをしない大きな瞳がもう何もかも分かり切っているようで不気味に映る。対照的に口元は微笑しており物言わぬ死体となった今ではその微笑みの意味は誰にも分からず。
朝の鳥のさえずりがクリアな透明感を持って室内に響いてくる。首だけでぶら下がった早朝の清々しい光景。朝日が白いドレスにとてもよく映える。白みがかった自殺体沙也加である私は、あと数時間後に両親が発見することとなる。兄も一緒に。
妹を姉だと思い込む漫画家志望の頭の狂ったおかしい奴。不憫な妹のような姉。
「沙也加!」
両親の悲鳴で小さなベットから目を覚ます俺。ただ事ではない悲鳴に聞こえた、何かがあった。
急いで駆けつけてみるとお姉ちゃんが白いドレスを身に纏い首を吊っていた。驚きの表情から段々と微笑みに変わっていく俺の表情。股間に手をやる、正直に反応しポジションを直す。
あの死顔はなんだ。笑っている。なんと綺麗だ。
想像や妄想の中の世界ではなかった。正真正銘なリアルな世界、確かな光景となって一種のキャラクターとしてそこに姉が存在しており、物語のヒロインにふさわしい綺麗な見た目で微笑んでいる。その遺体。
Gペンで線を引かなくてもキャラクターは自然と現れた。
白い背景画となってそこに部屋が存在し、主役である姉の存在感は際立って見えた。ホワイト修正液を使わないでもこの白さ。定規なんてもうどうでもいい。
泣き叫ぶ母親と俯き涙を流す父親を横目に漫画家志望の俺は静かにこう思う。
面白い作品は簡単に描ける。
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