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顔と身体のアタリをとり頭身バランスを考えて線を重ねていく。重心の取り方一つ一つに意味があり一本の線の意味がいく通りも存在する。
頭の中の想像を現実の紙に投射していくその作業。液体のような頭の中の形は実際に線を引いてみて徐々に定着していく。
真っ白い背景の前面にキャラクターが浮かび上がってくる。白と黒で表現された人物像、幾重にも重ねられた頭髪部分を覆う線の塊、流線的な顎のライン、全てを見透かしているかのようなアーモンド型の瞳、小さく微笑んだその口元、スタイルの良い純白のドレス姿。
首に紐の跡は付いていない。綺麗なものだ。
一本の線。
ただ一本の線。
頭頂部から頭上に目掛けて一本の線を引けば立派な首吊図の完成。ここでも微笑みを絶やさない女性に拓海は何を思う。
B4漫画原稿用紙の一コマ部分、大きなコマとなってそこに存在している。右上部分小さなコマに幼い少年が描かれており囲み台詞部分に印象的な文字。
「お姉ちゃん」
囲み台詞吹き出し部分にはそう書かれていた。コマの中の少年の顔はとても寂しそうで今にも泣き出しそうな雰囲気。
右下部分コマには漫画に使うGペンと定規の絵が描かれており、ここには台詞は書かれていない。
次ページに続く小さなコマには空白があるのみ。ページをめくる事はまだできそうもない。このページはまだ完成していない。
白いドレス姿の首吊り死体のキャラクター。その後ろに背景を描き始める、どこにでもあるような洋室、ベットを描いていき本棚を描いていき、大きなロフト部分を上方向に描いていく。
ロフト部分鉄柵とキャラクター頭頂部の紐が繋がった瞬間。晴れて立派な首吊り死体の完成。黒いベタを所々塗り一層場面が引き締まる。
ちゃんと漫画っぽくなってきた。囲み台詞吹き出しをキャラクター顔横に楕円形に描いていく。
お。
に。
い。
ちゃ。
ん。
キャラクターに魂の宿った瞬間。きちんと自分の言葉で喋り出した。
空白だった右下次ページへと続く小さなコマ制作に取り掛かる。一層Gペンを握る握力を強める拓海。黒いインク瓶にペンを浸し黒を吸着させていく。
下書きはしない拓海。一発勝負に己の人生を賭ける。その覚悟はある。
白いドレス姿のキャラクター口元アップを丁寧に描写してゆく、ふっくらとした丁度良い厚さの唇。細かい線で唇のシワ部分も丹念に描いてゆく。
まるでそこに存在するかのようなリアルな唇が空白だったコマに描かれた。
極薄のスクリーントーンをコマに貼っていき唇型に切り抜いていく、光の陰影をつけるためにカッターで細かく削ってゆく。
細かいスクリーントーン屑が白紙部分に小さく散らばる。羽箒でサッと撫でると屑は綺麗に消え去り存在感のある見事な唇が無事完成した。
この唇。口元が微かに開いている。
何かを喋っている。確かに喋っている。
唇横に囲み台詞楕円形を描いてゆく拓海。まだ何も喋っていない囲み台詞。作者である拓海はこの部分に自分の脳内で考えたありとあらゆる台詞を当てはめることができる。
勉強机椅子に座る現在の拓海。口元は静かに笑みを湛え口角が微妙に上がっている。台詞部分はまだ書かない拓海。頭の中で考える、首吊り死体が喋ったら面白そうな台詞。
ペンを走らせる。大胆に優雅に。力強く。大きな音を立てて。
こ。
ろ。
し。
て。
死んだ者が言う台詞ではない、確かに面白い。まだ死んでないんだと。まだ生きているらしい。
明らかに漫画原稿の上では死んでいるように見える。この白いドレスを纏ったキャラクターはまだ死んでいないらしい。だったら徹底的に殺してやると決意する拓海。
描いている最中股間に血液が集まり爆発しそうだった。今でも収まらない。きっとこの先一生収まらない。漫画を描き続ける限り。
次ページの制作に取り掛かる拓海。
頭の中で構想はもう出来上がっている。
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