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「あんた、野菜は好きかい?」
シゲユキは少し考えてから、箸を左右に振った。母が食べ残しにうるさいので食べるには食べるが、まだ両手で数えられる年齢の彼には、さほど美味しいと感じるものではない。
「裏庭の野菜がいっぱい実っててね、ご飯を食べたら収穫の手伝いをして欲しいんだよ」
シゲユキはさらに顔をしかめて祖母に抗議した。朝のうちに宿題をしなければ、遊びには行けない。そのうえ野菜の収穫を手伝うとなると、午前中はまるきり自由に使えないことになる。
「……お恵みを、くれるなら」
目の前の母がドンッとテーブルを叩く。それを合図に、父は読んでいた新聞を畳み、滅多にないことに朗らかに笑うのだった。
「母さん、たまにはいいじゃないか。毎回お手伝いさせてタダなんて、子供には酷だよ」
「そりゃそうですけど……。私は癖になるのを心配しているのよ」
母は如何にも不満げな声を出す。彼女は、家の手伝いをするのは普通のことだと考えているためだ。
「お義母さん、本当にいいの?」
「もちろん、タダでとは言わないよ」
「それ、本気?」
シゲユキは目を輝かせて祖母を見つめた。正直に言えば、母が月々くれるお小遣いだけでは、長い夏休みを過ごすには足りないのだ。
「ああ、本気さ。夕飯にはばあちゃんが、とれたての野菜で料理を振る舞うよ。こんな贅沢なご褒美はないだろう?」
「とれたての野菜がご褒美?」
「茄子なんか特に、お浸しにお味噌汁、天ぷらでもいいだろうし、シンプルに焼いただけでも美味しいわよねえ」
母は安心しきった様子で相槌を打つ。現金ではないと知って、機嫌を戻したようだ。反対に落胆したシゲユキは、下膳する母の後ろ姿を怨めしそう見つめる。父はとうに洗面台へ姿を消し、救援を求めることもできなかった。
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