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昼食は母と、シャワーを浴びて戻ってきた祖母との三人で食卓を囲んだ。テーブルには素麺のほか、輪切りにしたトマト、たたきキュウリが並んでいる。いつもは箸をつけないシゲユキだったが、この日は少し食べてみようという気になった。
「あら、珍しいねえ。やっぱり自分で収穫した野菜は別格だろう?」
シゲユキは素直に頷くのがなんとなく嫌で、わざと仏頂面をしてトマトを口に含んだ。いつもなら、舌に広がる酸味のせいでなかなか飲み込めないのだが、この日は甘味すら感じて簡単に食べることができた。シゲユキは自分でも驚き、もうひとつ口に運んでみる。
「もうすっかり苦手じゃなくなったね。ばあちゃん、嬉しいよ」
「気が早いわよ、お義母さん。まだまだ食べられない野菜が多いんだから」
シゲユキは母の言葉に対抗して、キュウリも口に運んだ。一度すんなり食べられるようになると、嘘のように抵抗感がなくなるのだから不思議だ。
「そうだ、ご近所さんからスイカを頂いたのよ。自分の家で育てているんですって。まだ冷えていないから、夜に食べましょう」
「なら、私がお礼の品を持って行くとしよう。何の野菜がいいかねえ……」
あっという間に皿は空になり、シゲユキは苦手な野菜を克服できた嬉しさもあって、後片付けの手伝いを率先してやった。もちろん、母に内緒で祖母から現金を受け取った後ろめたさがなかったわけではない。
食器を全て仕舞うと、母と祖母は居間へ休みにいった。昼寝でもするのだろう。やっと躰が自由になったシゲユキは、軽い足どりで玄関へ向かった。
外に出た途端、焼けるような暑さが少年を襲った。玄関脇に停めてある自転車も、グリップやサドルが火傷しそうなほど熱くなっている。シゲユキは自転車を恐る恐る動かし、ペダルに足をかけた。友人たちは、もう駄菓子屋にいるだろうか。
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