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風を切って走るうちに、シゲユキは自転車が熱いことも忘れて、ひたすらペダルを漕いだ。こんな暑さの日には温い風でも心地好く、真昼の田舎道を独占するのは最高の気分だ。
片側に水田が続く小道を黙々と進んでゆく。やがて、よく知る自転車が数台、陽炎に揺らいでいるのが見えた。シゲユキは駄菓子屋の前でブレーキをかけ、自転車を降りる。思った通り、扉を開け放した舗の中に少年たちが群がっていた。
「よう、シゲユキ!」
「ごめん、遅くなった」
「いや、オレたちも今着いたばっかりだ」
タカシ、ゲンキ、ユイトの三人は、ショーケースのアイスを眺めているところだった。皆一様に汗ばみ、躰を冷ましてくれるものが欲しいのだと思われた。シゲアキも祖母がくれた百円で、さっそく卵形のアイスを購入する。アイスを包んでいるゴムの先端を店主に切り取ってもらったシゲアキは、それを吸いながら何処へ行くのかを決めることにした。
話し合いの結果、向日葵畑へ行こうということになった。特に花に興味があるわけではなく、山のほうが涼しいだろうという、ごく単純な考えによるものだ。
少年たちはアイスを食べきると、旅のお供にラムネジュースを購入した。さらに肥満気味のゲンキが、暑さ対策にクーラーボックスの氷を噛む。
「じいちゃん、また!」
「おう、いつでも遊びに来な」
店主に別れの挨拶を言い、少年たちは舗を後にした。向日葵畑へ向けて真っ直ぐに延びた坂道は、上空の夏雲まで届いているふうな錯覚を起こさせる。車が何台もシゲユキたちを追い越してゆき、その度に彼らは負けじと自転車を速めた。
平坦な道へ出てすぐ、木製の案内看板が目についた。看板が示す通り、横手には色鮮やかな向日葵畑が雲海の如く広がっている。夏休みということもあってか、普段はがらんとした駐車場には多くの車が見られた。
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