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ユイトと別れたシゲユキは、向日葵畑の外周を注意深く歩いた。タカシは悪戯好きでもあるため、何処かに潜んでおどかしにくる可能性がなくもない。
だが、あいにく彼は今日、赤色のティーシャツを着ていた。黄色と緑の世界で、赤色の服装は夕方でもない限り目立つだろう。
シゲユキの推測通り、赤色の服を際立たせた少年らしき人物が、顔の確認できない距離に佇んでいた。シゲユキは手を振って、自分の存在をアピールする。
「おーい、僕だ!」
シゲユキは何度も呼びかけたが、一向に反応がない。もしかして勘違いだったかと、少年に駆け寄って確かめに行く。
「おーい、なんで逃げるんだ」
少年は急に背を向けて走りだした。シゲユキは見失わないよう、必死で追いかける。まさか、まだ追いかけっこの続きを楽しんでいるのだろうか。それにしても、あの少年はタカシにしては足が速すぎる。
「おーい、待てよ!」
少年の後ろ姿はあっという間に見えなくなり、シゲユキは息を切らしてしゃがみ込んだ。もうすっかり汗だくだ。体力を考慮すれば、一旦スタート地点に戻るのが賢明だろう。息を整えたシゲユキは、再び歩きだそうとして突拍子もない声を上げた。
「なんだ、人をオバケみたいに」
横手から現れたタカシは、怪訝な顔つきで腕を組む。
「だってさっき、あっちのほうに……」
シゲユキは前方を指差して、事のあらましをタカシに話した。彼はみるみる顔を青くして、リトマス紙のように変化する。
「ちょっと遠くに来すぎたなと思って、引き返そうとしたんだ。そしたら、おまえら三人が揃っていたから、オレも合流しようとしたんだ。でも、みんな一目散に逃げてくだろ? 腹立って逆方向に歩いてきたら、シゲユキが……」
「じゃあ、あの赤い服を着たのは……」
「……オレが見たのも」
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