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警戒する爪先が未舗装の地面に食い込む。
結局俺は、他の同級生にも同じ話をして回るイブシを尾行して、噂の闇外科医の拠点を突き止めた。
そいつの拠点は、俺たちエリート学生ならまず近寄らない場所。スラムとの境界線のこっち側、廃墟となったはずの記憶医院だった。
窓の向こうは明るい。
俺は痛んだどす黒い扉を聞いた通りのリズムでノックして、言った。
「我は依頼する者なり」
反応を待つ。
急に全身がむずがゆくなった。
何だ、さっきのノックも呼び出し文句も。頭の悪いファンタジーかよ。この俺にあんな恥ずかしいことさせてんな。
どんな文句を言ってやろうか考えてると、扉が動いた。壁との間にできた隙間から、人の手が覗く。
心臓と神経が凍ったような気がした。
指も手の甲も、コピー用紙みたいに異様に白い。手首の内側には消しゴムのカスみたいな小さくて赤い傷跡が刻まれていて、見ると鳥肌が立つ。
だが赤い光はない。
それを包むガバガバの袖は真っ黒だった。
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