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ざあ、ざあ、ざあ。
高校時代の友人である深雪との年賀状が途絶えたのは、今から三年前のことだった。
といっても、あくまで年賀状のやりとりがなくなった、というだけである。本人の仕事が忙しくなったので、これからは年賀状を書く余裕がなさそうだと連絡を貰ったのだ。それ以来、お正月のやり取りは電話かメールである。元々そちらでもやり取りをしていたから、さほど不便なことはなかった。むしろ私の方も、家族以外への年賀状はそろそろやめにしようと思っていたから丁度良かったとも言える。
「あー、いるいるいる。令和のご時世にさ、考え方が古すぎる系の上司ィ」
昔から、姉妹みたいによく似ていると言われた私と深雪。性格面でもそれは同じだった。苦手なことや嫌いな食べ物も同じ、好きな漫画やアニメも同じ、ついでに二次創作で好むCPも同じな腐女子仲間。さらにお互い、現実の男に興味がなかったゆえ、恋愛関係でトラブルになるなんてことも一切なし。まさに、理想的な友人だったと言える。どうしても将来結婚することになるなら、深雪みたいな男がいいなとわりと本気で思ったほどに。
今までの人生で深雪ほど趣味も価値観も合う相手に、私は出逢ったことがなかったのだった。
「喫煙所が会社にあるだけでありがたいって話だよね。自分が吸いたいからってさあ、仕事中に吸いに出るのを正当化するのほんとやめてほしいって思う。あと、煙草吸いながらコミュニケーション取るのが大事でー、とかって平成通り越して昭和つーか?」
『それだよそれ。あたしも困っちゃっててさ。他の人も、仕事にならないから一時間に何回も席立つのやめてほしいって言ってるしー。そもそも喫煙所から帰ってきたつーだけで、もう全身から煙草臭いの溢れ出てるっていうか。もうそれだけでこっちは我慢強いられてるのに気付いてほしいっていうか。オジさんの加齢臭と混じってほんと最悪なわけ。なんで自覚しないかなー』
「あはは、相変わらず深雪は辛辣。でも超分かるー」
一人暮らしのマンションで、私達の声はよく響く。どうしても声が大きいという自覚があった私は、あまり夜遅い時間まで電話をするのはやめようと気を付けていた。なんせボロっちいアパートで一人暮らしである。幸い、彼女も私も今はテレワークすることが増えた事務職員だ。昼間でも、予定があえばある程度好きなように電話をかけることは可能なのだった。まあ、会社に行くことがあるたびにストレスがたまるようで、お互いに上司や同僚の愚痴が絶えないわけだが。
「そういえば深雪さあ」
受話器のコードをくるくると指に巻きながら私は告げる。
「スマホ、いつまで壊れたままにしとくのよ?いい加減メールできないの不便なんですけど?」
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