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雲の形と着眼点(太陽の正位置)
「御機嫌よう主様、良いお天気で安心するわね」
朝からこんなに透き通っていて、且つ元気一杯の声を耳にできる機会など、あまりないのではないのだろうか。
彼女を見ていると、如何に自分に元気がないのかが分かってしまう。
「おはよう、太陽さん。本当に今日はいい天気だね、久しぶりの青空だ」
「そうね、最近は曇りが青空を隠していたから。きっと何か恥ずかしいことがあって隠れていたんだわ」
そう語る太陽さんこと『太陽』の正位置の思考は、どこをとってもポジティブ一色。
曇りの日のどんよりとした雰囲気を、青空の照れ隠しに変換してしまうなど、彼女にしかなしえない考えだろう。
「あはは、面白い考え方だね。私も恥ずかしいとき何かに埋もれて隠れてしまいたくなる時があるけど、空も同じなんだね」
「自然だって生き物よ、楽しいこともあれば寂しいことだってあると思うの。元気になってくれてうれしいわね」
「そうだね、私達は自然に生かされて生きているんだもんね」
ふと、そんな話をしていると、どこかで見たことのある形になった雲が流れてきた。
「見て、太陽さん。あの形何かに似ていると思わない?」
「あら本当ね、あれは……もしかして恐竜?」
「ん~私は犬に見えるけどなぁ……確かに尻尾もあるし恐竜に見えなくもないけど」
私が見る限りでは犬に見えたが、どうやら彼女には恐竜に見えたようだ。
その後も流れてくる雲の形が何に見えるか話をしたが、二人共全然違う形に見えていた。唯一一致したのは、間に穴が開いた雲。
「ドーナツ!」
声までぴったり揃い、二人で笑いあう。ここまで見るものによって違いが出るのかと思っていると、彼女が言った。
「主様、鵺ってご存知?」
「鵺……? 鵺って絵物語に出てくる怪物のこと?」
「そう、見る角度によって姿が変わるもののけのことね」
「太陽さん鵺知っているんだ」
「雲と同じだなって思ったの。着眼点が違うと見えるところも違うし、認識も違うでしょう? どこから見るかで変わるなんて面白いわよね、でも折角なら違う角度の見え方もみたいわ」
「違う角度……?」
「一方だけで判断してしまうよりも、いろんな角度から見て判断した方が、選択肢が広がると思うの。そうすればこうやって会話も弾むし、相手がどんな見方をしているのかもわかるから、相手の考えもわかるじゃない? それってとても素敵なことだと思うの」
そういう太陽さんはうれしそうに微笑んだ。嗚呼、この人はどこまで言っても優しく暖かい人なんだろうなと改めて思うのだった。
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