逃走

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 宿泊する予定のホテルに電話を入れてキャンセルしてから駅まで歩いた。窓口に座った駅員は、アンコウのような顔をしていた。 「東京まで大人1枚」  切符を買うときに、家出を見破られるのではないかとドキドキした。自動販売機でそれを買えばよかったと後悔した。が、とがめられるどころか質問もされなかった。それは後に大阪行きの高速バスの切符を買う時も同じで、世の中は思ったよりも他人に対して無関心なのだと知った。  東京行きの特急電車に乗り、灰色に変わった海の景色を眺めながら東京に住もうと考えた。渋谷、原宿、六本木……。東京は大海のように大きな街で、知っている地名も多い。沢山の人がいて、面白い遊びや仕事も沢山あるだろう。  いや、待て!……頭の片隅で理性が言った。その大海で多くの住人に混じって泳ぐのはイワシと同じじゃないか……。  家出少女が駅前やネットカフェで捕まって連れ戻される。……想像した光景は、岸壁で釣りあげられたイワシのようでぞっとした。母親も娘が東京にいると察して捜しに来るだろう。マグロやカツオが逃げる獲物を追うように……。
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