こうめとすずめ ~催涙雨の響く山~

1/6
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
 むかしむかーしのお話しじゃ。  山の神様や物の怪が、人と深く繋がっておった頃。  不思議な事が、当たり前であった頃。  あるところに、小梅という貧乏人の娘がおった。  小梅のおる村は、山に囲まれた貧しい小さな村じゃった。  両親も、生まれた時には何人か居た兄姉達も、次々に流行り病や怪我で亡くなってしもうた。  とうとう、村で唯一の若い娘っ子となってしもうた小梅。  厳しい生活ながら、爺様と婆様に育てられ、野に咲く雛菊のように愛らしさを持つ、心の優しいおなごへと育っていった。  ある雨の日のこと。  小梅が飯炊きをしていると、軒先で雨宿りしている雀が一羽おった。チュンチュンか細いあんよで地面を飛び跳ねる様に歩く雀。  飯焚きの匂いにつられたか、竈の側へ寄って来た。  アワやヒエで粥を作っておった小梅は、焦げ付かんようおたまで鍋を掻き混ぜとった。  その穀物のおこぼれに与ろうと、小梅の足元へ寄ってきた雀がようよう愛らしく囀ってみせる。  そんな可愛い仕草に、小梅は台所にある瓶の一つへ近寄ると、木蓋を開けて一つまみのヒエを手のひらに乗せた。  しっかりと瓶の木蓋を被せてから、雀へ向かってしゃがみ込み、そっと手を差し出した。 「すずめさん、すずめさん、うちにゃあ良い物はなーんにもねぇだが、おらの飯なら分けてやろ」  小梅の掌から雀が上手そうに飯を啄む姿は、なんとも心温まるものだった。  けども婆様に見つかったら折檻されてしまいそうだと、食い終わるとすぐにまた雀を軒下へと出してやった。  しとしと降る雨音に混じって、礼でも言っているのか、チュンチュン愛らしい囀りが止まない。 「ええ、ええ。もうええよ。分かったから。またお腹がすいたら、こそっとおいで。こそっとだで」  そう、ちっちゃな声で話す小梅の言葉が分かったのか、それきり雀は囀るのを止めた。そうして、小梅が一人でおる時に、ふらっと一羽の雀が訪れる様になった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!