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むかしむかーしのお話しじゃ。
山の神様や物の怪が、人と深く繋がっておった頃。
不思議な事が、当たり前であった頃。
あるところに、小梅という貧乏人の娘がおった。
小梅のおる村は、山に囲まれた貧しい小さな村じゃった。
両親も、生まれた時には何人か居た兄姉達も、次々に流行り病や怪我で亡くなってしもうた。
とうとう、村で唯一の若い娘っ子となってしもうた小梅。
厳しい生活ながら、爺様と婆様に育てられ、野に咲く雛菊のように愛らしさを持つ、心の優しいおなごへと育っていった。
ある雨の日のこと。
小梅が飯炊きをしていると、軒先で雨宿りしている雀が一羽おった。チュンチュンか細いあんよで地面を飛び跳ねる様に歩く雀。
飯焚きの匂いにつられたか、竈の側へ寄って来た。
アワやヒエで粥を作っておった小梅は、焦げ付かんようおたまで鍋を掻き混ぜとった。
その穀物のおこぼれに与ろうと、小梅の足元へ寄ってきた雀がようよう愛らしく囀ってみせる。
そんな可愛い仕草に、小梅は台所にある瓶の一つへ近寄ると、木蓋を開けて一つまみのヒエを手のひらに乗せた。
しっかりと瓶の木蓋を被せてから、雀へ向かってしゃがみ込み、そっと手を差し出した。
「すずめさん、すずめさん、うちにゃあ良い物はなーんにもねぇだが、おらの飯なら分けてやろ」
小梅の掌から雀が上手そうに飯を啄む姿は、なんとも心温まるものだった。
けども婆様に見つかったら折檻されてしまいそうだと、食い終わるとすぐにまた雀を軒下へと出してやった。
しとしと降る雨音に混じって、礼でも言っているのか、チュンチュン愛らしい囀りが止まない。
「ええ、ええ。もうええよ。分かったから。またお腹がすいたら、こそっとおいで。こそっとだで」
そう、ちっちゃな声で話す小梅の言葉が分かったのか、それきり雀は囀るのを止めた。そうして、小梅が一人でおる時に、ふらっと一羽の雀が訪れる様になった。
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