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何度かそんな日が過ぎた、ある朝。
急に、爺様に連れられて山の奥へと上って行く事になった小梅。
じい様の手伝いで山に入る事はあっても、こげな奥まで来た事ねぇ。そう、内心では訝しむ小梅だったが、素直に爺様の後を続いて足を進めていく。
あんれ、あっちに見えるんはなんの木の実じゃろうか、随分奥に来たけんど、この辺りにゃあようけ木の実が生っちゅうねぇ。帰りに婆様へいっぱい持って帰りてぇなぁ。
無邪気な様子で目に入る山の果樹を見ては、にこにこしとった。
もう随分と歩き続けて、日はとっくにてっぺんまで登っている。朝から歩き続けてお腹もだいぶん減ってきた。
棒のようになってきた足をなんとか動かし続けて、小梅は爺様の背中を見上げる。すると、ようやく爺様が足を止めた。
少し開けた場所で、腰かけるのにおあつらえ向きの切り株があった。そこへ小梅を座らせて、向かい合うようにして爺様はしゃがみ込んだ。
小梅のつぶらな目を愛おしそうに悲しそうに、正面から見やる。
「小梅、おらが山菜さ探してる間、おめぇはここで待ってろ。ええか、おらが迎えにくるまで、なんしても降りてきちゃあなんねぇぞ」
真剣な顔の爺様は、噛んで含めるように小梅へ言い聞かせる。その言葉に、こっくりと頷く小梅。
無邪気な姿に、爺様の目から溢れそうになるものがあった。爺様はそれを誤魔化すように俯き、懐から一粒の干し柿を出して、小梅の手に乗せた。
「あんれ、じさま! こげな良い物、じさまが食べてくんろ」
驚いた小梅は、ちっちゃな手のひらに乗せられた干し柿を爺様の口元へ持っていこうとする。
それを、爺様は笑って止めると侘しそうな声音で言い聞かせた。
「ええんじゃ、小梅が食うてくれ。
ほんに優しい良え子じゃ。
……ええか、ここなら近くに綺麗な小川もあるで、山菜も小梅に採れるもんがあるかもしれん」
爺様は、自分が身に着けていた、藁蓑を小梅にかぶせてやった。
小さな小梅の体を守る様に、しっかり藁実ので覆ってやった。
少しくすぐったそうに笑う小梅。いつも通り、なんにも疑ってなどいない小梅。
「ええ子じゃ、ええ子じゃなぁ。
小梅、必ず、儂が迎えに来るまで、降りてきちゃあなんねぇぞ」
「はい。じさま、気をつけて行ってくんろ」
小梅は手の中の干し柿を大事そうに持って、笑顔で見送った。
後ろ髪をひかれる思い出、振り返り振り返り、それでも確かに一歩一歩山を下りて行った。
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