4人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
そんなある日、小梅は思い切って男に切り出した。
「あんな、ようけ良くしてもらって、本当に有り難いと思うとるんよ。
けんど、一度、爺様と婆様の所へ様子を見に行ってみたいんじゃ」
小梅の言葉に、男は顔を曇らせて考え考え口を開く。
「止めた方がええ、迎えがくるまでは来ちゃあなんねぇって言われとるんでしょう?」
「ええ、それでも、やっぱり心配で……」
言葉に詰まった小梅を、男は優しく言い含めて、その日は寝る事にした。
夜遅く、こっそり起きだした小梅は、家の中に置いてある木の実や茸なんかを籠に入れて、山を下りていく。
朝露で足が濡れるのも構わず、重たい背負い籠もなんのその。
うっすらと空が白み始めた頃、やっと村が見えてきた。
早い時間に騒がしくしないよう静かに進むと、懐かしい住み慣れたボロ家の扉をそっと開ける。
「じさま、ばさま、今帰ったで!」
言いつけは破ってしまったが、久し振りに会えると喜んで家に入った小梅。
家の中に、一歩入った所で、草で編んだ籠を落としてしもうた。
そこには、荒らされた家の中で、重なり合うようにして事切れている姿が二つ。
「じさま! ばさま! どうして……」
何者かに殺されたのは一目瞭然で、一体爺様と婆様の身に何が起こったのかと、小梅はただただ泣き崩れてしもうた。
泣いていると、何やら外で足音がして騒がしい。
家の中からそっと伺うと、村の中では若い中年の男衆が、家の前に集まって見えた。
見知った顔に家を飛び出す小梅。
「すんません! おらの爺様と婆様が、悪漢に襲われたみたいなんじゃあ!」
せめて弔いだけでもと、村の男衆に手伝ってもらえんか頼むつもりでいた小梅に、男衆は卑しい笑いを浮かべてジロジロ見てきた。
「おう、小梅や。
どこぞ逃げとったんじゃ、随分と探したわ。
あんのくそ爺が、おめぇを逃がしたと聞いてな、みんなで懲らしめてやったんじゃあ」
そう言って、悪鬼の如く、にやぁっと嫌な笑いを浮かべた。
「へ、じ、じさまとばさまを……?」
おかしな雰囲気に気付いた小梅が身体を震わせると、舌なめずりして男衆はゆっくり近づいてくる。
「そうじゃ、この飢饉に流行り病もあって、村にゃあ金になるもんがなーんもねぇ。
おめぇ以外はな」
一歩、また一歩とじりじり近づいてくる男衆から逃げようと視線を巡らせるが、か弱い小梅に逃げられるとも思えなかった。
「そ、そんな……」
「まったく、せっかく金になるもんを独り占めして隠そうだなんて、とんだ爺だ」
そう言って、ついに小梅の腕を掴もうと男衆が手を伸ばしてきた時――
家の屋根から、一人の男が降ってきた。
「小梅! 逃げぇ!」
あの山の男が、手に小刀を持って、村の男衆に向かい白刃をふるう。
その言葉に、小梅は弾かれたように男の山小屋へと走って逃げた。
最初のコメントを投稿しよう!