第一章 「あの日の誓い 前編」

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 ...ふと、前を行く妹の足が止まった。妹は黙って、左の方を見つめていた。どうかしたのだろうかと思い、私も妹と同じ方を見つめる。其処には、黒い焔に追われて逃げる人々がいた。身なりからして、貧民か何かだろう。 (......あの子...) 「お兄様、あの子」 そして妹と私が見つめる先に、一人異色の(さい)を放つ少女がいた。少女はエルフ族らしく、先の少し尖った耳を持っている。そして、シンプルだが非常に上質だと素人目にもわかるであろう衣服を身に纏い、常人離れした整った顔立ちをしている。何処かの貴族か何かであろうか。だが、少女の表情はこのような状況だというのに無そのもので、まるで精巧な作りの人形のようでもある。そして何よりも、私たちが疑問に感じたことがある。 「あの子、どうしてあんな所にいるのかしら?」 彼女が人々より後ろの...つまりは焔の目の前を走っているということだ。 「だってあの子、服装からしてどこかの貴族かなにかでしょう?」 妹が先程のことなど忘れたかのように私に話しかける。あるいは、忘れたことにしてしまいたいだけなのかも知れない。そうしないと、私たちは兄と妹であることができないのだ。だから私も、先程のことなどなかったかのように妹に話し返す。 「確かに、その可能性は高そうだ。だが、あの少女がこの場所にいる以上断定はできない」  そう、あの少女はこの場所にいる。_城からだいぶ離れたこの場所に。
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