41人が本棚に入れています
本棚に追加
「そうですね。だって、城をこの黒い焔が呑み込んでからまだそんなに経っていないもの。貴族なら、今日は城に呼ばれているはずだから、この短時間でここまで来るには少し無理があるわ。...ましてや、自分の足で走ってここまで来るなんて」
妹が、そう決定的と思える発言をする。
「だが、それは、普通の貴族だったらの話だろう」
それに対し私は、妹の意見を真っ向から否定する。彼女はそれを聞き、口元に笑みを浮かべた。
「その通りです、お兄様」
妹は心底嬉しそうに言う。きっと、彼女は私を試していたか何かなのだろう。妹と私では出来が違う。彼女は、私よりも遙か先のことを知っているのだ。
「あの子は、明らかに普通じゃないもの。だって、あの子私たちと同じ気がするの」
そう、妹は続けて言った。
(私たちと同じ...か)
妹が言った同じという言葉。きっと、深い意味はなく使ったのだろう。だが私にとっては妹と同じ、と彼女に言われることがどうしようもなく辛かった。私たち二人は、何もかもが違うというのに___。
「...様、お......様。.........お兄様!」
妹が私を呼ぶ声が聞こえ、私は自身の意識を思考の渦の中から現実へと戻す。どうやら、随分と長い間考え込んでいたらしい。妹が私を心配そうに見つめていた。
「すまない、少し考え事をしていてね。それより、どうかしたのかい?」
私が話し出すと、妹が少しだけホッとした顔をする。その後彼女は後方の焔を振り返り、らしくない真剣な表情を覗かせて言う。
「ここにもだいぶ、焔が迫ってきています。早く逃げましょう、お兄様」
私も妹に倣って、後ろを見ると確かに黒い焔が迫ってきていた。私たちは、一も二もなく城の東へと走り出した。
最初のコメントを投稿しよう!