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「ハル、さっきも浅野に鉛筆削り貸してたけど、浅野に色々貸すのやめたら?」
リーダー格の女子にそう言われたとき、嫌な感じがした。たぶんこれは、警告。
「うーん、でも鉛筆つかってるの私くらいだし、困ってるのほっとくのもどうかなあって」
一応、自分のキャラをつかってそれらしいことを言って優しさに見せかけた抵抗をしてみるけど。
「鉛筆つかってるからって浅野なんかに優しくする必要ないんじゃない? 持ってこないのが悪いんだからほっとけばいいんだよ」
やっぱり、あまり意味はなかった。
カーストに敏感な私は、これ以上浅野くんになにかを貸すことがどういう意味を持つか、はっきりとわかる。つまり、カースト最下位にならないためには私はもう彼に鉛筆削りを貸せないし、甘美な心地よさは手放すしかない。
きっと浅野くんはそれでも困らないだろう。都合のいいやり方をしていた報いがやってきただけ。私は選ばされる。カーストか、快楽か。私の答えは決まっている。いつだって、それが私だ。鉛筆をつかうのをやめなくていいなら、浅野くんとの「鉛筆組」という共通点は、カーストを捨てなくても持ち続けられる。それは悪くない話だった。
だからあっさりと言った。
「まあそうかも。別に貸す義理もないしね。やめようかな」
簡単な選択だったはずなのに、口から出したその言葉と共に、何か大事なものを手放した気がした。もうあの心地よさは戻ってこないんだという喪失感。どこまで行っても自分のことばかりの私のズルさは、優しさとは真逆の位置にあるもので、カーストを捨ててまで私に優しくしてくれた浅野くんは、優しいだけじゃなくて自分の芯を持っているんだと思う。鉛筆の芯は折れたりしなくて、でも私の芯はシャープペンシルのように簡単に折れるし、見た目はそのままで芯を入れ替えてつかい続ける。
私はシャープペンシルで、浅野くんは鉛筆だと思った。
私も鉛筆になりたいと思った。
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