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――世の中にいる人ほとんどが、「滑稽だ」と笑うような恋をしている。
わたしは、駅のホームのベンチに腰掛けながら、ぼんやり思う。
先ほどから視線は手元に固定されている。入場券の切符の角を、爪の先でカリカリといじった。
この時間はすごく退屈で、そのくせ、緊張感に溢れていた。
心臓が、うるさい。
どくん、どくんと動き回って、止まってくれなくて、体を巡る血液も熱くって、喉元までその熱さが押し寄せてくる。
わたしが何度も唾を飲み込んでしまうのは、そのせいだ。
……まだだ。
まだ、視線を上げることはできない。今顔を上げた所で、「彼」の姿を見ることはできない。
これからやってくる電車に、彼はまだ乗っているのだ。
早く、ホームにアナウンスの声が聞こえないかなと思う。
そして、早く風が吹いてこないかなと思う。
電車の勢いに乗って、わたしに向かって、風が吹いてこないかなと思う。
……わたしの心臓の音をかき消すような、ごうごううるさい風が、早く吹かないかなと思う。
ああ、……全く。
――世の中にいる人ほとんどが、「滑稽だ」と笑うような恋をしている。
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