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「でも……辛くて。お母さん、あんなに優しかったのに」
ポタポタと二人の手に滴が当たる。
「また優しいお母さんになるわよ。今は混乱しちゃってるだけ。私も母に当たり散らしたけど、でも母のことは本当は大好きだったし。そうよ、ずっと大好きだった」
空いている方の手で涙を拭ったであろう前宮さんが「仲直りしましたか?」と問う。
「したわよ。最後は姉妹みたいな親子だって言われるくらい仲良しだったもの」
サッと目の前を何かがよぎったのを感じて思わず目を瞑ると、頬に布が当たった。前宮さんが涙を拭いてくれたのだと知った。優しい子だ。母親がこの子を嫌いなはずはない。
「ありがとう」
「はい……。あの、これ食べていいですか?」
弾かれたように手を開放した。ずっと握り締めていたから二人の手は汗ばんでいた。
「もちろん! フィナンシェ好き?」
「名前はわかりませんけどお菓子は好きです」
前宮さんがはにかんだように感じて涙を拭いながら微笑んだ。
「私もよ」
「あ、ラズベリー味だ」
「そう! 本当は食べたかったから。でも採れないからフィナンシェはラズベリー味なの」
ペリペリと袋を開ける音。いただきますとキチンと言う前宮さん。
「じゃあ、またとりに来ます」
「ほんと?」
「はい!」
モグモグと咀嚼しながら、本当は前からお願いしたかったと前宮さんは言った。でも、姿が見えなくてラズベリーを採りたいと言えなかったと。
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