しるこ屋

3/3
前へ
/29ページ
次へ
 運ばれてきたのは、洗面器みたいに大きな益子焼のどんぶりに入った、てんこ盛りのあんことアイスクリームでした。下の寒天も見えないくらいたっぷり入って、灰色の器の縁ぎりぎりまで、あんずや白玉を並べています。スプーンではなく、おたまが添えられていました。キングよりも大きい天狗サイズ。腕組みをしてこちらを見下ろす天狗の視線を感じながら、食べ残したら会計する前に殺されるかもしれない、と体を震わせ、縮みあがった胃袋の中へぎゅうぎゅうとクリームあんみつを押し込みました。  お腹がいっぱいになり過ぎて、朦朧としながら椅子の背もたれに寄りかかっていると、こちらをただじろじろ見ていた天狗たちが、ひそひそと何か話し始めました。でももうどうでもいいような気がして、椅子の上で大の字になりぼんやりとしていました。すると、 「だめじゃない、やっぱ女の子じゃないと」 「細面だし色白だし、似たようなダシ出るんじゃない?」 「だめよ、男ってだけでスープが濁るのよ」  ぼそぼそとそんなことを言うのが聞こえてきましたが、その気配で、なんとなく、自分が助かるような気がしてきました。  それでも胃は重く、動きたくないなあと思っていたら、相談が終わった天狗たちが、今度はいらいらしながら、いつまで居座ってんだよ、と言いたげに睨んできます。居づらいので、かばんを持ってよろよろと立ちあがりレジへ行きました。  量に見合った高い値段の支払いをしていると、レジを挟んで天狗の長い鼻が私の額をぴしぴし突いてきます。好きな甘いものをお腹いっぱい食べたのに、あまり嬉しくありませんでした。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加