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「焼きとスイと揚げがありますが、どれにします?」
壁にかかっているメニューを見ると、それがぎょうざの調理法の種類であることがわかりました。
焼きぎょうざ、スイぎょうざ、揚げぎょうざが一律二百円。私はスイぎょうざにしました。
「ビールかライスはいかがですか」
熊は毛並みの奥から真っ黒な瞳をこちらに向けて聞きます。
「じゃあ、今飲んできたばっかりだし、ライス一つ」
私は鼻からアルコールのにおいのする息を吐き出しました。会社の仲間と結構たくさん飲んできたので酔っぱらってしまい、この人のことが熊に見えるのかもしれません。
熊は、
「はい」
ともう一回言うと、厨房に入っていきました。
カウンターの奥にほかに人影はなく、あのツキノワグマが一人でこの大人数の客の注文を受けて調理をして運んでいるのだろうか、と感心しました。
私の隣に座っているサラリーマンの皿には焼きぎょうざがあります。六個の三日月が行儀よく並んでいます。彼らは仲間と喋りながら、一つずつ口に運び、かり、という音をさせて噛み砕いて、黄色いビールをごくごくと流し込みます。見ているとおいしそうで、食欲がわいてきます。早く来ないかなあ、と思い厨房の方へ顔を向けると、すぐ目の前にこげ茶色のむくむくの毛皮があらわれ、
「おまちどうさま」
と私のテーブルにも、白い深めの陶器の器が置かれました。六個の真っ白な三日月が、透明なスープの中に浮いています。
割り箸をとり、食べようとすると熊がまだそこにいます。構わずに一つ目に箸をつけました。すると、
「お客さん、聞いてください」
憂いを含んだ声で熊が言うので、私は箸を止めて彼の方を見ました。
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