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しるこ屋
突然の出張を命じられて、私はその街に行きました。
行き先は勤務している会社の北関東営業所です。
打ち合わせを無事に終えてビルから通りに出ると、ふう、と小さくため息がでて、自然に手が伸び、ネクタイをゆるめました。
天気がよく、風が涼しい。今日は湿度も低くて空気が軽く感じられます。
仕事が済んだら直帰してよいと言われていたので、なおすがすがしい気持ちで、歩道をぶらぶらあるきました。
時間もあることだし、同僚へのお土産話になるような有名な店にでも行ってちょっと休もうと、スマートフォンで検索しました。駅から近いし、なにかあるでしょう。そして、そう遠くない場所に、老舗のしるこ屋さんがあるのを知ると、そちらの方へ足を向けました。私は甘いものが好きで、とくにあんこが好きなのです。
地図通りに行くと、大通りの一本奥の路地に入りました。
駐車場や雑居ビル、飲食店がある通りの中に、ふと、街中なのに緑が多い一軒屋が現れました。
ほかの建物は道路に面した入り口がありますが、その家は石畳が奥まで敷かれ、行き止まったところで高い樹木が左右から伸び、瓦ぶきの屋根へ、静かに影を落としています。
営業中、と筆で書かれた板と、薄い桃色で染められた二巾(ふたはば)のれん。間違いのない佇まい、そして検索サイトで見たとおりの外観に心躍ります。
引き戸を開けたとたん、だしの香りに包まれました。ここは、あんみつやぜんざい、あんこの入ったパフェという甘味のほか、うどんとぞうすいも人気のメニューなのだそうです。
もうすこし換気した方がいいんじゃないかと思うくらい濃厚なだしの香りが店内に満ちています。おそらく休む間もなく注文されるほど、うどんやぞうすいもおいしいのでしょう。
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