偶然を愛する女

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 茜はこういう対応が僕より上手い。 「もう。連絡しても全然電話に出ないから、携帯電話を家に置いて来ちゃったのかと思ったよ」 「あっ。ごめん」  着信履歴に茜の名前が並んでいた。 「何となく電気屋にいると思ったけど」 「すみません……」 「もういいよ。お腹すいた! ランチ行こ!」 「もう一時過ぎてたんだ」 「何食べよっか。パスタ、ハンバーグ、海鮮丼……」  視線の先に本日開催のイベントポスターが貼ってあった。眉間に皺を寄せ、あからさまに不機嫌な顔をしている。イベントスペースで、よく当たる占いで有名になったタレントのトークショーをしているようだ。男性タレントの声と、観客の笑い声がステージの方から聞こえてくる。 「茜、こっちから行こうか」 「ううん。大丈夫。レストラン街はステージの奥でしょ。行こっ」  茜が足早に歩き出し、慌てて追いかける。垂れ幕にタレントの出版本のタイトル『運命の人は自分の行動範囲にいる!』と大きく書かれていた。 「何の捻りも無いタイトルだよね?」 「そうね」
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