偶然を愛する女

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「……分かってるよ。ちょっと気になっただけ」 「ほら、来たよ、茜のハンバーグ」 「あっ。うん。美味しそう」  目の前でじゅうじゅうと焼けるハンバーグを嬉しそうに見つめた。  たまたま探していた小説が見つからなくて、探すのをお願いした店員が茜だった。本当に最初はただの偶然。彼女のおすすめの小説を買ってみたり、本屋にいた迷子を一緒になだめたり、そんな事があってから彼女の人柄を好きになった。本屋のイベントでぽつりと言った『私は運命なんて信じてない』という言葉に、ならば偶然を装うと心に決めた。  彼女の行動範囲を会話や行動から探り、利用しているスーパーマーケットやカフェを知った。より自然に偶然を装って彼女の視界に入る。声を無理にかけたりしない。不自然な出会いを彼女は嫌うから。  彼女の方から声をかけて来た時は、高ぶる気持ちを抑えるのに必死だった。上手くいったとガッツポーズしそうになるのを我慢して、その出会いに驚いてみせた。 「なーに、にやにやしてるの? ステーキ貰い!」 「あっ! 最後の一切れ取っといたのに!」 「はい、ブロッコリーあげるからさ」 「それ、自分が嫌いなやつじゃん」 「でも、拓海は好きでしょ?」
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