Diary

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恋を知らない君へ  風音ソラ 僕は恋をしたことがない。 人は恋をすると詩人になったり、優しくなれたりすると聞くが僕にはそんな経験がない。 恋をした気になっていた僕は本当の君を見ていなかったのかもしれない。 いや、僕は本当の恋をしたことがなかったのかもしれない。 君が笑ってくれるだけで嬉しかった。 話を聞いてくれるだけで嬉しかった。 側にいてくれるだけで嬉しかった。 それだけで良かったんだ。 傷ついた君に優しい言葉の一つもかけられない僕は恋をする資格すらないのかもしれない。 今、僕は傷つけてしまった君に手紙を書いている。 天国の君へー 「diary 日記の日付は止まっている あの日から僕の時計は止まったままだ 古びたノート 使えなくなったノートパソコン 立てかけたままのギター 部屋に残るガラクタ 閉ざされたままの部屋 君との日記を開く 君と写った写真が栞のように挟まれている 2019/3/20 この日付を最後に日記は更新されていない 君と僕が最後に会えた日付 今、この日記に新たなページを刻もうと思う。 2022/2/22 「僕は生きる」 一人病院までの道のりを歩く。 通いなれたその道を通るのはもう何回目だろう。 時々道に落ちているゴミや無造作にはられた何かのチラシや市議会議員のポスターがある。 視線を落とすと僕は街と同化できる。 もう僕はこの街に存在していない 自分の全てを否定してー そんなことを考えていると病院に着いた。カフェのようなその病院はとてもその種の病院だとは思えない。 僕は今や立派なベテラン患者の域に達している。発病してから10年が過ぎたが未だにこの病の原因は分かっていない。 たぶん、完治することもない。 僕はそういう十字架を背負って生まれてきた。 受付を済ませて端の方の席に座る。 ランの花が生けられていて心がすっと軽くなった。 「並木さん。どうぞお入りください」 「お加減どうですか?」 「代わりありません」 「そうですか、、それでは無理なさらないでくださいね」 医師は優しい笑顔を浮かべる 心の中で「大丈夫なら、来てないよ!」 なんて毒づいてみる。 ちょっとスッとしたところで元の席に座る。 皆一様に暗い表情をしている。 僕もその場に同化する。 存在を消すようにスマホの画面を見ながら、、 診察代を支払い、外に出る。 見慣れたこの風景も何か特別なもののように感じる。 ふと、通りを見るとスマホを見ながらキョロキョロとしている女の子がいた。 不思議に思ったがそのまま通りを歩いていた時だったー 「バタン!」 「え?」 すごい音がしたので振り返るとその女の子がスマホを片手に通りに倒れていた。 「大丈夫ですか!!」 僕はその女性の元に駆け寄った。 辺りを見渡しても他に誰もいなかった。 呼吸があったので女性を起こして肩を担いで先程の病院に駆け込んだ。 「すいません!」 「どうされましたか!」 「この方が倒れたんです!」 受付で話すと医師が駆けつけ応急手当てをして、点滴を受けながらストレッチャーで運ばれて行った。心配してその場に立ち尽くしているとやがて医師が出てきた。 「先生! 大丈夫ですか?」 「大丈夫だよ、、」 「貧血で倒れただけだから、、」 「この方うちの患者さんでもう大丈夫だから、、」 「並木さん。ありがとう、、」 医師は安堵の表情を浮かべてそう告げた。 僕は複雑な感情のまま病院を出て呆然とその場に立ち尽くしていたー
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