迷えるオメガの初恋は

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『男同士なんてキモくね?』 その瞬間、僕の初恋は脆くも崩れ去った。 僕の両親はアルファ×オメガの夫夫だ。そのため、男同士のカップルは当たり前だし、男の母親も当たり前だった。そんな両親を持つ僕もおそらくアルファかオメガであると思われていたけど、どう見てもアルファのように特出して優れたものがないため、オメガだと思われている。だけど、外見だけ見たら実はベータにしか見えないほど僕は普通の姿をしていて、体力知力共に平均。なぜか見目麗しい両親には1ミリも似ず、本当に普通の子供だった。 まあ、アルファ×オメガからも少ないけどベータは生まれるし、おかしな話じゃないよね。 そんな僕に周囲は要らぬ心配をしくれていたけど、両親は僕の性など関係なくたくさんの愛情をかけて育ててくれた。だから僕はそんな両親が大好きだし、僕達家族はとても仲良しだ。 そんな僕が中学に入って淡い恋心を抱いた友達にあのようなことを言われ、大きなショックを受けることになる。 転勤族の父の仕事の都合で引越しとともに入学した中学で初めて友達になってくれたその子と仲良くなるにつれて、僕はその子に特別な感情を抱くようになった。 まだ第二性診断前の中一の夏休み、訪れた映画館で男同士のカップルを見かけた時にその子が言った一言。 『男同士なんてキモくね?』 その言葉に僕は何も言えず、ただ笑っているしか無かった。そして心はその言葉の矢が突き刺さり、血を流した。 その子のことがそういう意味で好きだと気づき始めていた僕にとって、それは死刑宣告にも近い言葉であり、それを否定できなかったことが文字通り男同士の両親を蔑んでしまったようで心が痛かった。 その子の言葉は深く僕の心を傷つけたけれど、僕はそれをその子に言えなかった。自分の思いを知られてこれ以上傷つけられたら、きっと僕は立ち直れないと思ったからだ。だから僕はそのとき誓った。この思いを、決して本人に知られてはいけないと。 その子の両親はベータの普通の夫婦だ。当然父親は男で母親は女。この世の八割強はベータなのだから、それはごくごく当たり前のことで、そのなかで育ったその子が実際に同性カップルがおかしく見えたのは仕方のないことだと思う。だからその子が悪いわけじゃ全然ないんだけど、だけどその子の言葉は僕の胸に突き刺さり、傷となって残った。 そしてそれから僕は、自分の心を隠してその子と付き合うことになる。 中二で第二性診断があり、僕は予想通りオメガと診断された。けれど相変わらず外見はそれらしくなることも無く、発情期も訪れないまま中学を卒業することになった。 その子の診断結果は分からないけれど、その子の外見もまた特出したものはなく、両親もベータであることからベータであると予想された。実際友達として付き合っていた中学時代は、お互い相手の性別を特別訊くことも話すこともなかったけれど、お互いベータとして接していた。 ベータの親友。 口には出さなかったけどその子は僕のことをそう思ってくれて、他の子達よりも特に仲良くしてくれた。だけど僕の心は、その曇りのない信頼に息が詰まりそうだった。 僕はその子にいくつ嘘をついているのだろう。 実際は嘘ではなくて隠し事だけど、その一つ一つを隠す度に僕の心は苦しくなった。 幸か不幸か中学生の内に発情期が来なかったために第二性がバレることは無かったけれど、その子に抱いてしまった恋心は消えることはなく、僕の心を苦しめ続けた。 そして限界だった。 思いを隠し続けて笑顔を作る苦しさが、ずっと一緒にいたい気持ちを上回ってしまった。 僕は全てを隠したまま、高校入学を機にこの地を離れることにした。父の転勤での引っ越しだったのだけど、そのことを誰にも・・・もちろんその子にも言わなかったのだ。 中三の受験で志望校を告げず、在学中もみんなと話を合わせ、そして当たり前のように卒業した。高校に行ってもまた会おうと約束して。でも本当はもう会うことは無い。僕は引越しをし、高校は全く別の土地だ。 僕は苦しい初恋を胸に抱えたまま、その地を離れたのだ。
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