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新天地、東京。
僕はここに住まい、高校に通った。
そしてここでも僕はベータと思われて過ごすことになる。というのも外見は相変わらず普通で、しかも発情期が来なかったからだ。そのためなのかオメガとしては身体の育ちがよく、身長も178cmととてもオメガには見えないほど高くなってしまった。
どこからどう見てもベータ。
見た目も知力も体力も、本当にベータにしか見えない僕は、そのまま何の色っぽい話もなく高校を卒業することになる。
恋人はゼロ。
もちろん告白されたことも、告白したことも無い。
僕の高校生活は全くそういうことに無縁で終わってしまった。
本当は恋をしたかった。
恋人にも憧れた。
だけど中学時代のあの辛い思いが、僕の心にストッパーをかけてしまっていた。
心に燻る淡い初恋を忘れたくて、誰かを好きになろうと思った。でもその度にあの子の言葉が頭に浮かんで怖くなってしまう。
ベータにしか見えない僕をアルファが気に止める訳もなく、ベータにしたら同性の男に惹かれることは無い。僕自身は同性同士のカップルに偏見はないけれど、あの時のあの子の言葉に、ベータ社会で同性同士がどう思われているかを痛感した身としては、リスクを犯してまで同性を思うことは出来なかった。
ベータにしか見えない僕が、ベータの男の子を好きだなんて言ったらおかしいよね。
本当はオメガだから全然おかしなことはないのだけど、あの時の言葉が僕を縛り付けた。
僕がもっとオメガっぽかっから良かったのに・・・。
でも実際はベータの冴えない普通の男子高校生。そんな僕がベータの男の子を好きになっても、きっと相手は受け入れてくれない。それどころかまたあの時のような言葉を言われてしまう。そう思ったら恋など出来なかった。だからだろうか、忘れたいと思っても忘れられないあの子への思いは、そのままずっと僕の心に留まり続けた。
そんな僕に転機が訪れたのは高校を卒業した春休みだった。
転勤族の父がまた地方へ行くことになり、大学も決まって東京に残ることになった僕が単身向けのマンションに引越した時だった。ようやく荷物も片付きほっと息をついたそのとき、それは起こった。
どきどきと早くなる鼓動。そして疼き出す身体。
発情期が訪れたのだ。
僕はやっぱりオメガだったんだ。
徐々に欲情していく身体に戸惑いながらも、不思議な気持ちになっていた。確かに診断ではオメガとされてはいたものの、まるでオメガとは思えない見た目と一向に来ない発情期に、僕自身本当にオメガであるのか疑問だったのだ。
だけどやっぱりオメガだった。
それにほっとしながらも始まった発情期に僕は戸惑いながらも身を委ね、身体が求めるままに己を慰め続けた。けれど、おそらくそれは通常よりも軽く済んでしまったようだ。というのも、我を忘れる瞬間がなかったからである。
強い発情の波は意識を飲み込み、記憶すら曖昧にさせる。
そう聞いていたのに僕にはその瞬間は無く、いつもの生理現象から来る欲情がずっと続いたような感じで終わってしまったのだ。しかも期間は3日間。
これは本当に発情期だったのだろうか・・・?
そう思った僕はバース科の医師に診てもらったのだけど、やっぱり発情期で間違いないようだ。ただしやっぱりかなり弱いものだった。
どうやら僕はオメガではあるがそのフェロモンはかなり薄く、ほとんどベータに近いオメガらしい。そのため発情期が遅く、通常出ているはずのフェロモン量はほぼゼロ。そのせいか外見的特長が現れにくく、見た目もベータに近くなってしまったと推測された。けれどここでようやく弱いとはいえ発情期が訪れ、それが呼び水になってこれからフェロモンの量も増えるだろうと医師は言う。
とは言え、いまの段階では通常のオメガのフェロモン量には到底及ばず、うなじに顔を近づけてようやく嗅ぎつける程度だという。それでも全く出ていなかったときに比べればかなりの進歩だ。
これからどんどんフェロモンが増えるといいけど。
そう思っても、僕の身体はあくまでものんびりなようで、そうそう思ったようにはならなかった。なぜなら
発情期が、予定通りに来ないのである。
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