迷えるオメガの初恋は

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ドキドキが最高潮になる。 会計を済ませ(先輩が出してくれた)、店を出ると先輩が僕の腰に手を回した。 「・・・行こうか」 腰に回った手とその言葉に、僕の身体はあからさまにビクンと跳ねる。すると先輩から吹き出す声が聞こえた。その声とともに先輩の身体は小刻みに揺れ、僕の腰から手を離した先輩は口に手を当てて腰を折る。 「あ・・・あの・・・」 お腹と口に手を当てて笑っている先輩に、僕は訳が分からずおどおどしてしまう。 「ごめんごめん。君があんまりにもかわいくて」 そう言って涙が滲んだ目元を拭う。 「ずっと緊張して映画も食事も上の空で、そんな君がかわいくてつい・・・ごめんね」 そう言ってふわりと笑う先輩からは優しい香りがする。 「無理しなくていいよ。君のペースで行こう。だけどまだ俺は君といたいから、もう少し付き合って」 そう言って連れていってくれたのは有名な居酒屋チェーン店だった。 さっきはすごくオシャレなカフェだったのに、急に飾らない賑やかな場所に少し驚く。でもすぐに分かった。緊張している僕のために、あえてここにしてくれたのだ。 「何にする?」 そう言って渡してくれたのはソフトドリンクのメニュー。以前僕がお酒が全然飲めないって言ったのを覚えていてくれたのだ。 そんな気遣いもうれしい。 「じゃあ、梅ソーダをお願いします」 その言葉に優しく頷いて、オーダーを取りに来た店員さんに自分の生ビールと梅ソーダ、そしていくつか料理を頼んでくれた。 「それでは改めて、今日という日に乾杯」 そう言ってグラスを合わせて始まった初めての居酒屋デートはこの日初めて僕の緊張が解けて、ようやくいつものように話すことが出来た。だからこの時間が楽しくて終わってしまうのが名残惜しくなっていた。そんな僕の気持ちに気づいてくれたのか、それとも先輩も同じ気持ちだったのか、先輩はグラスが空きそうになった時、もう一杯飲んでもいいか訊いてくれた。 「もちろん。僕も同じものをいただきます」 そんな先輩の気遣いが嬉しくて、僕の心は温かくなる。 今までだってすごくいい人だった。だけど今日はもっと優しくて僕のことを思ってくれている。それがすごく伝わってきて、僕もそんな先輩に応えたくなる。 このまま、もっと一緒にいたいって言ってしまおか・・・。 ここが終わったら今日は終わりにしようと話していた。でもそれは、ずっと緊張していた僕に気遣って言ってくれていたことで、僕が望めばきっとこのあとも・・・。 映画に誘われた時から、覚悟は決めていた。だから今日も朝からそうなるって思っていた。だからずっと緊張してきたんだけど・・・。 今日一日ずっと一緒に過ごして、もっと先輩の優しさを感じることが出来た。 だから・・・。 「先輩、このあと・・・」 「お待たせしましたっ」 もっと一緒にいたいと言おうとした僕の言葉と、追加の品を持ってきてくれた店員さんの声が被ってしまった。その声に僕は咄嗟に言葉を切り、笑顔で店員さんから梅ソーダを受け取る。そして同じように生ビールを受け取った先輩を見て、僕はいま言おうとした言葉が急に恥ずかしくなってしまった。 こんなこと言ったらはしたないって思われるっ。 そんな変な焦りを誤魔化そうと、いま来たばかりのソーダを一気に煽った。すると途端に喉がかっと熱くなって鼓動が大きくなる。 これ、さっきのと違う。 そう思った時には既に半分近くまで飲んでいて、慌てて口を離してグラスをテーブルに置くも既にものすごい勢いで心臓が脈打ち、顔が熱くなってくる。そんな僕の様子にすぐに気づいた先輩が慌てて僕のそばに駆け寄るのを見たところで僕の意識はふわふわっと曖昧になっていく。 「大丈夫?!」 遠くで声がする。 「これなんですか?!」 焦ったような先輩の声。 「う、梅酒ソーダです」 先輩の勢いに押されて震える店員さんの声。 ああ、これ梅酒かぁ。 ふわふわする頭で納得する。 なんだか楽しい。 「頼んだのは梅ソーダだ」 「えっ、あ・・・あの・・・申し訳ありませんっ」
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