迷えるオメガの初恋は

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先輩と店員さんのやり取りがまるで水の中で聞いてるみたいに籠って聞こえる。それがなんだか面白くて僕は笑ってしまった。 先輩、そんな怒らないでください。 そう言いたいのに、頭も身体もふわふわして思うように行かない。 20歳になった時、僕は自分の酒量がどれ程のものか知るために自宅で一人で試したことがある。それは弱いなりにもオメガだし、これから飲みに行く機会も増えるだろうから、酔っ払って身に危険が及ぶのを恐れたからだ。 だから試してみようと用意した缶チューハイ。それを飲んだ一口目で顔が熱くなり、二口目で頭がぼやっとなって三口目で意識が飛んでそのまま朝を迎えた。そしてその間の記憶がないと分かった時に、僕は決してお酒は飲むまいと心に誓った。予想以上の弱さに、これはオメガでなくても身が危険だとわかったからだ。なのにそんな僕が梅酒ソーダを半分も飲んでしまったら、それはもう意識なんて飛んじゃうよね。 頭がふわふわして、なんだか楽しくて、おかしくて。 おそらく身体もふらついていたのだろう。先輩が僕の身体を支えてくれている。そしてそのまま立ち上がらせてくれて歩き出す。 まだ先輩、二杯目を飲んでないのに。 ぼやける頭でそんなことを考えながら、僕は先輩に支えられながら歩いていく。 すると先輩からいい香りがして、思わずその首元に鼻を近づけた。 先輩は僕よりもすこし背が高いので、ちょうど僕の鼻は先輩の首筋に当たる。そこに鼻をくっつけて嗅ぐと、なんとも言えないいい香りがする。 いい香り。 その香りをもっと嗅ぎたくて、さらにくっつけようとした所を先輩に引き剥がされる。 「こらこら、ダメだよ」 焦ったような声だけど、香りがなんだか艶を帯びてくる。 このまま先輩にくっついていたい。そう思ったその時、僕の鼻を別の香りが掠めた。その瞬間鼓動が大きく脈打つ。 ドクンドクンと明らかに今までとは違う鼓動と、熱くなっていく身体。そして身体の奥底は急激に疼き出していく。 お酒による熱じゃない。 先輩の香りによる欲情でもない。 ぼやけた頭の片隅に残る理性が、警戒音を鳴らし始める。 これは発情・・・! でもそれに気づいた時にはもう遅く、僕の身体は小刻みに震え、火照る身体に息が上がっていく。既にお酒によって散漫していた意識がさらにばらばらに散って行く。 初めて発情期を迎えてから、こんなに強く発情したのは初めてだ。もともと発情期自体軽く、その後も不安定で来ない期間の方が長かった。だから経験回数もそんなに無いけれど、こんな・・・こんなに身体が熱くなるなんて・・・。 もう意識も理性も保ってられなくて、僕はすぐ側の先輩(アルファ)に抱きつき、お願いするように身体を擦り付ける。 熱い。 早く僕を慰めて。 そんな僕を受け止めながらも戸惑いの心が伝わってくる。 僕を包むアルファの香りに、もう僕は立っていられない。先輩が崩れる僕の腰に手を回し、抱き抱えたその時、先輩の手に力が籠った。 「君はオメガ・・・」 まだうなじに顔を近づけられた訳では無い。だけどこんなにも強く発情してしまったのだから、それだけいつもよりフェロモンが出ているのだろう。 「せん・・・ぱい・・・」 震える身体は力が入らずに、だけど奥底の疼きは強くなる一方で、僕は自分でもどうしようもない衝動に先輩を見上げる。するとその時、さっき鼻を掠めた香りが強くなった。その香りにまた身体が煽られ、目の前が白く弾け飛ぶ。 何が起こっているのか分からない。 オメガとしてはフェロモンが弱く、発情期を迎えても軽く済んでしまうどころか、発情期自体ほとんど訪れない僕の身体は一体どうしたのだろう。 先輩に支えられ、自分で立つことも出来ない僕は強い力で引っ張られ、次の瞬間僕を狂わす香りに包まれていた。 「すみませんがこれはオレのなので、触らないでください」 強いアルファの力が放たれ、それは先輩に向けられた。と同時にそのアルファの力は僕を縛り付ける。 苦しいくらいのアルファの力。なのに心も身体もその力に歓喜する。 もっと縛って欲しい。 そのアルファの香りと強い力に囚われた僕は、なぜか心の底から歓喜と安堵をしていた。
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