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「……知りたいか?」
揶揄の声色が、俺の背筋に冷たいものを走らせる。
指先から動揺を感じ取ったのか、
奴は暗い笑みを強めた。
「俺らを送り込んだのは、あんたのボスだよ。
勝手をしすぎたようだな、兄弟」
奴の口からひきつった笑いが漏れる。
そこまで聞いてやる義理はないと、
俺は左手に力を込めた。
笑い声が引き絞られ、掴んだ身体から力が抜ける。
倒れるに任せて手を離した。
ボディブローがよほど効いたのか、
もう一人も動く気配はない。
狭い空間を降り注ぐ音色が満たした。
俺の中に棲みついたざわめきに寄り添いながらも、
騒がしい静寂は無言のうちに選択を迫る。
どうするのかと。
俺は──、
「──どうしたらいいと思う?」
「知るかよ。寝ろよ。何時にかけてきてんだよ」
明らかに寝起きの声で友人は答えた。
それでも電話には出るのだから、良い奴である。
「そう言ってくれるな。
おまえが勧めた雨音アプリのせいで、
俺はますます眠れなくなってるんだ」
「それは悪かったよ。雨音でそこまで妄想する友達がこれまでいなかったんだ」
「いや、わかってくれればいい。
それより俺はどうすべきだ?
肝心なところで頭がぼうっとしちまって、
良い案が浮かばないんだ」
「しっかり眠くなってんじゃねぇか。
やっぱり寝ろよ、寝るべきだよ、おまえは」
「だが……俺にそれができるか?」
「おまえならできる。大丈夫だ、おれに続け。
……あと、そのアプリは消しとけよ」
「ああ。——そうだな」
通話を終え、時計を見る。
夜明けはまだ遠い。
助言に従いマットレスへ横たわると、
瞼は意外にも容易く、今日の視界に幕を引いた。
持つべきものは友人か。
今はひとまず眠りにつこう。
朝が来たら、ボスと対決だ。
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