雨音は何処に誘う

2/2
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
「……知りたいか?」 揶揄の声色が、俺の背筋に冷たいものを走らせる。 指先から動揺を感じ取ったのか、 奴は暗い笑みを強めた。 「俺らを送り込んだのは、あんたのボスだよ。 勝手をしすぎたようだな、兄弟」 奴の口からひきつった笑いが漏れる。 そこまで聞いてやる義理はないと、 俺は左手に力を込めた。 笑い声が引き絞られ、掴んだ身体から力が抜ける。 倒れるに任せて手を離した。 ボディブローがよほど効いたのか、 もう一人も動く気配はない。 狭い空間を降り注ぐ音色が満たした。 俺の中に棲みついたざわめきに寄り添いながらも、 騒がしい静寂は無言のうちに選択を迫る。 どうするのかと。 俺は──、 「──どうしたらいいと思う?」 「知るかよ。寝ろよ。何時にかけてきてんだよ」 明らかに寝起きの声で友人は答えた。 それでも電話には出るのだから、良い奴である。 「そう言ってくれるな。 おまえが勧めた雨音アプリのせいで、 俺はますます眠れなくなってるんだ」 「それは悪かったよ。雨音でそこまで妄想する友達がこれまでいなかったんだ」 「いや、わかってくれればいい。 それより俺はどうすべきだ?  肝心なところで頭がぼうっとしちまって、 良い案が浮かばないんだ」 「しっかり眠くなってんじゃねぇか。 やっぱり寝ろよ、寝るべきだよ、おまえは」 「だが……俺にそれができるか?」 「おまえならできる。大丈夫だ、おれに続け。 ……あと、そのアプリは消しとけよ」 「ああ。——そうだな」 通話を終え、時計を見る。 夜明けはまだ遠い。 助言に従いマットレスへ横たわると、 瞼は意外にも容易(たやす)く、今日の視界に幕を引いた。 持つべきものは友人か。 今はひとまず眠りにつこう。 朝が来たら、ボスと対決だ。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!