#1 噛みつきたい

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#1 噛みつきたい

「もう、いい加減……誰と会っても同じなんだよな」 思わず、陽一郎の心の声が口を()く。 (諦めが悪い親を持つと、疲れるな)  ストレスを解消しに入った書店で、お気に入りのガウディの建築写真集を見ながらホッと息をつく陽一郎。 ドンッッ! 「あ、すいません! リュック当たっちゃって」 「大丈夫です。気にしないで」  狭い書店の通路でぶつかってきた若い男は、律儀に陽一郎の顔をみながら謝る。 (おっと……イイ男じゃん)  その若い男にジッと見られていたが、メガネを外した陽一郎は、そんなこととは(つゆ)知らず。本を落とさなくて良かったという安堵感だけがあった。 ただ、気になったのは、若い男の去り際にほのかに香ったムスクの存在。その若い男が纏ったと思われる、ムスクの香り。  夜まで、その香りに包まれるとは思わなかった。 ―――――――――――――――――― 「あれ? お前、今日早番じゃなかった?」 「うん。売上貢献しに来てあげたんだよ」 「ハイハイ。じゃあ、お前のファンクラブも連れ て来いよ」 「いいね、それ。ちょっとトイレー」  ドンッッ! 「すみませんっ! オレ、よそ見してて……っ て大丈夫ですか?」 (今日はよく、人にぶつかるなぁ)  (きょう)がぶつかった男・陽一郎は、尻もちさえついていなかったが、よろけて壁に頭をぶつけた様だった。陽一郎はぶつけた方の頭をなでながら、(きょう)の謝罪を受け入れる。 「ああ、大丈夫。そんな強く当たってないから。でも額切れてないかな。見てくれる?」 「あ、はい」  ほろ酔いの虚ろげな目で、(きょう)を見た陽一郎。額がよく見える様に陽一郎は、自分が掛けていた眼鏡を外し、クルンッとした癖のある髪を掻き上げ、(きょう)に見るよう促した。  トイレに通じる薄暗がりの通路。  このBar NESTは、(きょう)の仕事場だ。 壁にかかった間接照明に照らされた陽一郎の額を 見ようと近づき、(きょう)は背伸びした。たぶん、(きょう)より10センチ程背が高い。 (きょう)の目の端に映る陽一郎は、目を逸らさず、虚ろげな目で(きょう)を見て離さない。視線を感じ、少しだけ陽一郎の方を見ると、一瞬目が合う。 (めっちゃ見られてる。もしかして、ホント は凄い怒ってるんじゃ? それか、酔ってる?)  少し長めの前髪が先程まで隠していたのは、 陽一郎の端整な顔立ちだった。切れ長の涼やかな目元。睨むとは違う。真実を捉えるようなその目つき。スーツに身を包んでるのもあって、より凛々しく感じられる。陽一郎がその場を離れようとした時、(きょう)は咄嗟に陽一郎の腕を掴んでしまった。 「あ、あの、ごめん。急に掴んで」 (何やってんだ? オレ ) 「大丈夫。僕も足元フラついてたから」 (いや、そうじゃなくて。親切じゃなくて、引き止めたんだけど) 「大丈夫ならいいんだ。良かった。じゃ」 (まさか、気になった相手に2回も遭遇するとは……しかも同じ日に)  カウンターの隅に戻った陽一郎。彼はタンカレーNo.10をロックで再度、注文。これをゆっくり飲むのが好きらしい。 思わず、陽一郎の行動を少し離れた所から目で追う(きょう)。 (じっくり飲む派かぁ。セックスもねちっこ いのかなぁ? まぁ、淡白よりはいいか。一見、 地味めだけど……アッチは大きそうだし。って、彼やっぱり昼間見かけたイケメン……だよね。向こうは気づいてないけど)  カウンターで、眠気に誘われていた陽一郎。昼間のイライラで、素直に帰る気にはならなかった。 「お兄さん? 大丈夫?」  タイミングを見計らって、(きょう)は陽一郎に話しかける。 「……ん……」 「お兄さん、そろそろ、お水がいいんじゃない? さっき、ぶつかった時もだいぶ足下フラついてた感じだったけど、大丈夫? 飲み過ぎ……何かイヤなことでもあった?」 「……ん……イヤなこと?」  その言葉が引っかかったのか、虚ろげな目のまま陽一郎は(きょう)の方を振り向いた。 「そ、イヤなこと。オレが一緒に呑んで、忘れさせてあげようか?」 (……あ、キレイな人だなぁ……) 「じゃ、改めて出会いとお詫びに、乾杯しよ」 「お詫び?」 「ほら、さっきぶつかっちゃったでしょ、オレたち。忘れた?」 「あ、そうか。君……大丈夫? ケガさせちゃったかな? そんなキレイな顔に」  静かにグラスを合わせる。 「初めまして。キョウっていいます。真中 (まなか きょう)」 「僕は……伊崎 陽一郎。疲れてて、あまり面白い話できないかも」 「大丈夫、気にしないで。隣にいるだけでもいいよ。無理に会話することはない。それ以外にも楽しむ方法は、あるから」 「そうだね。無理にすることないね」  ロックグラスに入ったジンと氷を陽一郎は、ゆっくり揺らす。 「そ、無理なことはない。流れに、素直に身を委ねて、気持ちイイことを楽しめばイイ」 「気が合うね。したくないことは、しない。これに限る」  陽一郎は、残りのジンを飲み干した。 「おかわりは? あ、明日は休み? 陽一郎さん」 「休み……そうだね」 「送るよ。その疲れ、癒してあげるから。すっごく気持ちイイ方法で」  空いたグラスに休みなくお酒を注ぎながら、ジワジワと手中におさめようと攻める。(きょう)が上目遣いで誘えば、こんな大人な雰囲気の奴でもカンタンにのってくる。 「癒してくれるの?」 「そうだよ」 「会ったばかりなのに、優しいね。セラピストなのかな? それに、すごくキレイだ。君は……」 「そう? キレイ?」 「透明感あって、現実のものじゃないみたいだ。……これは、夢かな……みんな僕には、求めるばかりだ。疲れたよ」 陽一郎は手を伸ばすと、(きょう)の頬にそっと触れた。 「現実なのかな……コレは。肌に触れた感触があるから、夢ではないか」 「そう、肌に触れてる。陽一郎さんの手、大きくて柔らかくて、気持ちイイ。現実でも、夢でもどっちでもイイほど、気持ちよくなれる方法があるよ。だから、全てを忘れて、今のことだけ感じて」  (きょう)は、暗示をかけるように陽一郎の耳元に囁く。 (本当、シュッとした顔をしてるよなぁ。今は眼 鏡だけど。あぁ、あの顎から首にかけてのラインにマーキングしたいわ。噛みつかせて頂きたい) 「ねぇ、陽一郎さん、続きはお家でゆっくりする? ホテルに行く?」 「家に帰るよ。近いから」 「じゃ、陽一郎さんちで、2次会しよ」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「大丈夫? もう、家に着いたよ。陽一郎さん」  ようやくの事で、陽一郎の自宅まで戻って来た2人。陽一郎は、若干、(きょう)に抱き抱えられる形で帰宅した。 「大丈夫? 陽一郎さん。お水持ってこようか?」 「うん……」  リビングのカウチに寄りかかる陽一郎から離れようとすると、陽一郎に手を掴まれバランスを崩す。陽一郎に覆いかぶさった(きょう)の耳元に吐息混じりの声が響く。 「そばにいて、(きょう)」 (そんな艶っぽい声で求めないでよ)  陽一郎は、無言で(きょう)の腰に腕を回すと、自分に引き寄せた。優しく(きょう)の頬に手を触れ、軽く自分の唇に重ねた。  遊び慣れてなさそうな陽一郎の第一印象とは裏腹に、先手を取られた驚きで一瞬、身動きがとれないでいると、陽一郎は続けざまにキスを迫り、(きょう)の服の下に手を入れまさぐる。 「陽一郎さん……っ。ダメ……」 「なんで? 叶、イイ匂いがする。気持ちイイよ、君といると。キレイな君の唇にキスしたい。ダメなの?」 「キスだけ? そんなんじゃ、満足できないな。誰を相手にして言ってるか分かってんの?」 「キスだけって? ……どういう……」  経験値が薄いであろう陽一郎を、まどろっこしく思いながら(きょう)は、形を確かめるように陽一郎の唇にゆっくりと、自分の肉厚な唇を重ねた。 「ちょっ、ダメだよ。こんな……んっ」 「陽一郎さんが言ったキスだよ。こんな熱いキスでも足りないの? 意外と欲しがる人なんだね。シャイに見えて……すっごくエッチ好きとか?」 「ちが……っ」 (きょう)は、逃げ腰な陽一郎の舌と自分の舌を絡め、濃厚なキスをしながら、腿にあたる陽一郎の男根を優しく焦らし、扱き始める。気持ち良さに悶えながら、陽一郎は(きょう)の両肩を掴み、暴走する叶を阻もうとする。  唇にキスを。次は、首筋に跡ができるほど濃厚に。(きょう)は、逸る気持ちを抑えつつシャツのボタンを外す。 「っはぁ……んっ……。待って、(きょう)……」 「い、や。もっと気持ちよくしてあげる。初めての経験でしょ。陽一郎さん、遊んでる風には見えなかったよ。それとも、そんな興味ないフリしてテクニシャンだったり……」 「んん……っ」 「ここに聞いたら、分かる……かな」  抗いながらも、陽一郎の声が漏れる。お酒が効いてきたのか、抗う手に力が入りづらい。艶のある(きょう)がもはや、男とか女とか酔いが回っている陽一郎には、そんなことを確かめる余裕もなく、(きょう)の滑らせる手の温もりに期待と戸惑いを感じながら、夢と現実の境界線を見失っていた。 「セクシーな男が啼いてる姿、大好き。しか も、童貞君のお宝が目の前に。ね、男になりたいでしょ」  お返しとばかりに今度は、陽一郎の耳元に唇を 近づけ囁く。 「っん……」 「気持ちイイこと……キライ? 女の子とす るより感じるよ。前と後ろどっちもイケるか ら。楽しみは倍。きっと、クセになる」  (きょう)は陽一郎の下着まで剥ぎ取り、彼の男根を露わにする。お互いの男根を2つ合わせ、丁寧に上下に扱き始めた。 「んン……っ、あっ、きょ……ん」 「あン……気持ちイイ?」 「……なに……コレ……あっ」  血管を浮き上がらせて屹立(きつりつ)した陽一郎の男根の根元に手を添わせ、舌をゆっくりと先っぽから根元まで唾液とともに這わせる。あまりの立派さに思わず頬ずり。人肌を否が応でも感じる。 「ホラ、身体は素直だよ。すっごく硬くなってる。陽一郎さんのおちんちん。分かるでしょ? 射精()したくて、おちんちんがキツくなってるの」  悦楽に浸った男根は強く脈打つ。 「待て」ができない子猫は、濡れたカリに自分の舌を尖らせ、その溝に沿って幾度も舐める。 その度に陽一郎は、ピクリッと腰を小刻みに揺ら す。カリを舐めた所為か、白濁の愛液がジワリと溢れ(きょう)の指を濡らした。 「んンッ」 「感じてる陽一郎さん、すっごくいやらしい」  身体を起こし、敏感になった下半身の所為で深く眉間にシワを寄せ、(きょう)を潤んだ瞳で見つめていた。気持ち良さで意識もうろうとした眼で(きょう)を見つめる。  陽一郎の上に跨ったまま脚をM字に大きく広 げ、(きょう)は蜜の付いた自分の指で1本、2本と自分の蜜壷を広げ、解し始めた。 「何してるか分かる? ……んっ」  陽一郎から目を逸らさず誘う様に解し続ける。 (オレを見てあんなに感じてるんだ? 全然萎えないじゃん。あんな大きなのが自分の中に押し込まれる……ぁあっ、ヤバい! 早く犯されたい!) 「ああっ」  下のお口に指をのみ込ませ、身悶えする(きょう)。 快感で下唇を甘噛みしながら、尚も手は止まらない。陽一郎は好奇心からなのか、感情の昂りなのか、(きょう)が自分で解している手元から目が離せなくなっていた。 「ねぇ、手伝って……くれる?」 「て、手伝う?」 「もっと、こっちに来て」  陽一郎の指を掴んで、(きょう)は自分の口に運ぶ。充分に湿らせてから、自分の蜜壷に2本のみ込ませた。 「……んんっ」 「えッ、あ、あの……あっ、指入っ……て」    初めてのことで、狼狽える陽一郎。 「大丈夫。怖くないから。ゆっくり、そのま ま身を任せて。陽一郎さんのおちんちんが入るように広くして」  抜き差し、指は動かしながら、唇を重ねる。 お互いに熱く舌を絡ませた。今度は(きょう)の蜜壷の入口を擦り、もう片方の手で(きょう)の陰茎を扱き、()がらせ始める。 「ぁっ、一緒に、ダメぇ」 「気持ちイイ? スゴイ濡れてる。脚の付け根まで垂れて。ほら、アヌスも締まってる。僕の指が抜けなくなるほど」 「やっ、言わないでよ! そんなのいいからも う、もっと、奥まで欲しいぃっ」  ゴクリ。渇いた喉に無理矢理、唾をのみ込む。(きょう)の 「イイトコ」に当たって、また(きょう)がビクンッと背中を反らす。さっきまで受け身だった陽一郎が、悶える(きょう)に堪らず攻めの言葉で感じさせる。 「ヤダっ。イ、イク……イっちゃう! ダメ ぇ……っ!」  あまりの恍惚に頭がボーッとする(きょう)。身体に力が入らず、愛液が滴り落ちる。そんなトロけたイキ顔の(きょう)に我慢が出来ず、陽一郎も我を忘れて愛撫を続けた。 「も、ダメっ。おかしくなっちゃう……から」  陽一郎の執拗な攻めに、淫らに啼くことしか許 されなかった。 (童貞地味メンだと思ったのに……何? 急に止まらないんだけど。エロスイッチ入った?)  (きょう)の蜜壷を執拗に掻き混ぜ、悶える表情を楽しみながら、身体中に唇を這わす。時折、(きょう)の露わになった硬い部分に行き着き、自分のモノを弄るように(きょう)と同じ鼓動で腰を揺らす。 「いいよ、どんな(きょう)も見ててあげるから。脚の間に熱いモノを感じる。スゴッ……、(きょう)のアソコ、いっぱいトロけて甘い。蜜が溢れて止まらないよ……こんなに感じて。悶えて歪んだ顔がスゴくエロくて、可愛いくて、堪らないね」 「あんっ。ヤダ……なんか……漏れちゃうっ」 「君が悪いんだよ。君がセクシーに踊るから」
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