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「いきなり呼び出して、なんだよ母さん。」
その日、一人暮らしをしている俺は、実家に呼び出されていた。
「そんなに固くならないでいいじゃないのよ~。今お茶入れるわね~。」
「いいよ別に。で、なんで呼び出したんだよ。」
早くしろ、と俺は急かした。確かに用事はないけど!
でも休日くらいは休みたいんだよ!
だが、母さんは、
「そうそう。そういえば、おいしい紅茶買ってきたのよ~。飲んでく~?」
「いらんいらん。いいから早く要件を言え。」
…モードに入ったな、と俺は思った。
この人がこうなったら、1時間以上話に付き合わされてしまうのは目に見えている。この前なんか5時間近く振り回されたし。
何をそんなに話すのかというと。
例えば、隣の家に住み着いている元野良猫のタマの話とか。
例えば、有名なスケート選手がかっこいいという話とか。
例えば、インドで作られる紅茶の話とか。
実家に呼び出されては、こんな話を何時間も聞かされているのだが、本人はそれを何とも思っていないのが憎たらしい。断らずに実家に来ているだけ感謝してほしいものだが。
「確かニルギリって名前で…」
「いいから早く言え!」
「ちなみにニルギリっていうのは…」
「南インドにある西ガーツ山脈の南部ニルギリ丘陵でつくられる紅茶の総称!」
「あら~知ってるの~豆知識披露しようと思ったのに…」
上3行を計15回繰り返していることをこの人はどうやら忘れているらしい。
多すぎてウィキペディアの文章を暗記してしまった。
ちなみに別名は『紅茶のブルーマウンテン』。これも母さんの、入学式の校長よりも何倍も長い無駄話のおかげである。
どんだけ記憶力悪いんだよ!と彼は思った。
ちなみに15回同じことを考えていることにも彼は気づいていない。普通なら何か文句を言うところだが。
…やはり親子は似るのである。
「それでね~これがおいしくて~」
「いいから言え!」
「分かったわよ、つれないな~」
ようやく少しほっとした。ようやく話してくれるらしい。
「で、なんで呼び出したわけ?」
ようやくのんびりできるぞー。
「そうそう、この間買った紅茶が…」
「帰る。」
「あぁ~わかった、言うから、帰らないでぇ~」
「で、なんで呼んだの?」
これでも話さなかったら、優しい仏様でもブチ切れるぞ。
いや、12回もオーバーしていたら、ブチ切れを通り越して呆れるか。
「私、結婚するの。」
「……………………?????」
……今、なんていった?
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