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「ほんとうに、ありがとうございました」  スーツ姿の男女数名が、こちらに向かって丁寧に頭を下げた。 「いえいえ、そんな。仕事ですので」  上げた顔に晴れやかさが戻ったことを確認して、僕は踵を返した。胸に溜まった黒い(もや)も、その顔を見れば幾分か浄化された。  ボクの仕事は、あらゆる空気を綺麗にすること。汚れてしまった空気を清浄な状態に戻すレンタル空気清浄屋。追加料金で窓を開け、新しい空気を入れてやることもできる。  もちろん手遅れな場合もあって、その時は正直に理由を話し、お金はもらわない。  その代わり、依頼が期待以上にうまくいったときなんかは予想外の金額をもらってしまうこともある。  そのたびにボクは断るが、気持ちだからと言われて押しきられてしまう。  そんなわけで、ボクの懐は温まる一方だ。代わりに胸に黒い靄が溜まっていくわけなのだが。  本日二件目の依頼主と別れ、さて今日はそろそろ落ち着けそうだと一息ついたとき、呼び出しのベルが鳴った。  ボクはひとつ息を漏らし、通話ボタンを押す。 「空気清浄01に通達。01現在地近隣にて、空気清浄依頼を受け付けた。直ちに現場へ向かえ。依頼主は────」  ボクは一通り依頼主の情報を頭に入れ、早速現場へと向かった。
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