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 先に口を開いたのは、夫の直哉さんだ。 「なにから話せば良いのか……。俺は、この前言った通りだから。帰りが遅くなるのも、付き合いで飲みに行くのも全部仕事だから仕方ないんだよ。疲れて帰ってきて、お前の不機嫌な顔を見ると余計に疲れるんだ。あと、休みの日は疲れも溜まってる。休日くらい、ゆっくり寝かせてほしい」  依頼主の真希さんは、膝の上に置かれた手を握りしめた。 「仕事が忙しいのは、分かってる。疲れるのも分かる。だけど、少し家のことを(ないがし)ろにし過ぎじゃない? 子育ても家のことも何もかも、ほったらかしじゃない。まるで、体のいい家政婦を雇ってる独身男の生活よ」  そう。この家庭には、今は預けているそうだが小学生の子供もいるらしい。 「簡単に言うなよ! 家庭を背負って、家族のために働いてるんだ。そのプレッシャーがわかるかよ」 「プレッシャーってなによ。仕事だけしてりゃ良いくせに。こっちだってパートしながら家のことも子供のことも、全部背負って毎日働いてるの」  すかさず反論した真希さんに、直哉さんは眉をひそめる。 「は? 一緒にするなよ。毎日働いてるって、パートは週4回だし短時間だろ?」 「一緒になんてしてないわよ。家事にも子育てにも、休みなんてないの。週休二日で家のこともせずに休みの日は寝てるだけのあなたと、そっちこそ一緒にしないでよ!」  二人の言い合いは、だんだんとエスカレートしていく。
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